魅入られて-1
どこの家の部屋ともわからぬ場所で、わたしは寝ていた。傍らには色白でとても綺麗な女がいた。
部屋は少し薄暗く、外には山が見えた。夕方だったのだろう、山は少し赤らんでいた。
その女は薄く笑い、おれを呼んだ。なぜかその時、わたしはなんの疑いももたず着いて行った。
外へ出るとひぐらしの声といやに生ぬるい風がわたしを出迎えた。
わたしは急に怖くなり立ち止まった。すると女も立ち止まった。
声はかけず、わたしは首だけ降った。
女は手を出した。わたしはその手を握った。女の手は白くて綺麗だった。
女は山へ足を踏み入れた。山の中は暗く、微かに届く太陽の光が獣道を怪しく赤く照らしていた。
赤い道をわたしは歩いた。歩き続けていると赤い道はいつしか見えなくなっていた。それでも、ただひたすら女に付いて行った。
突然、道がひらいた。そこには月と大きな木があった。月は綺麗だった、いや綺麗というより妖艶という言葉が正しい。引き寄せらる、離れたくなくなるそんな感情をわたしに持たせた。
いつのまにか女は消えていた。
なぜだかわからないが、不安には思わなかった。
しばらくわたしは何もせずに、何かを待った。月、空、草、木。何一つ変わらない。何時間、何分、何秒、ここにはまるで時間がないようだった。
そしてゆっくりとゆっくりと存在が作られた。それは古い着物を着た少女の形になって安定した。
少女はゆっくり近づいてきた。少女の手が体に触れた途端恐ろしくなった。
その恐怖は頭では理解できなかった。ただ動けなくなった。殺されたのかもしれない、しかし確かめる手段もない。
その反応を知ってか知らずか、彼女はゆっくり手を離した。わたしは汗を垂らし失禁さえもしていた。
そうか。とても気づくのが遅かったがわたしは察した。
女に会う前から決まっていたのかもしれないし、少女に出会った時に決まったのかもしれない。いやきっともっと昔から決まっていたのだ。
ああもうなにもわからない。
わたしは知らないうちに今度は自分から、少女の手を握っていた。