形-1
「はは、なにそれ。」
ユウトさんは煙草を吸いながら軽薄そうに笑った。
「ね、結婚してとか、なにそれだよね。」
「だって、セックスしかしてないんでしょ、君たちは。」
「うん」
「まあ、そうでもしないと、りっちゃんを自分のものにできないって、焦ってるのかもね。」
私のうしろに回って、私を抱きながらユウトさんは言った。
「…そう言われると、悪い気しないですね」
早坂さんに、はっきりした返事をしないまま、結局何事もなかったのように私たちは、生活していた。
お金の問題とか、仕事をどうするかとか、そんな具体的な問題より、
結婚というものを本気で早坂さんが考えているとは思えなかった。
自分をより自覚させるための手段として、結婚をちらつかせている。
笑止千万、だ。
「でも、羨ましいな、そんなに想ってもらえるのは。」
「え」
ユウトさんを見ると、さっきまでの軽薄な表情は、消えていた。
「たまに分からなくなるんだ、彼女に愛されているのか。」
「…。」
「俺、彼女とセックスどれくらいの頻度でしてると思う?
月に1回するかしないかなんだよ。
俺が誘うと、嫌そうな顔するんだ、なんでそんなにしたいのって。
セックスがないから愛されていないとは思わないけど、
なんていうか、説得力がないんだよね。
愛してるとか、好きとか言うのは簡単だよ。
ただ、それを形にしてもらわないと、
不安になることがある。
りっちゃんの彼氏は、セックスとか、プロポーズっていう、目に見えるもので好意を形にしてくれているんだから、
りっちゃんは、幸せだと思う。」
ユウトさんは、どこか、宙を見ながら、呟くように言った。
私は、ただ、黙ってそれを聞いていた。