俺と彼女の話-4
涙をぼろぼろと零しながら、思った。
彼女に会いたい。彼女の姿が見たい。彼女の声が聞きたい。
俺の手は、自然と電話機に向かっていた。昔よくかけていたから、電話番号は指が覚えている。耳に当てた受話器からは、直ぐに呼び出し音が響いてくる。
「……はい」
暫くして、電話に出る声。この声は、多分彼女の母親だ。
「お義母さん、お久しぶりです」
「あら、あなただったの」
俺の声を聞くや、義母の口調に刺が生えた。……当然だ。三日間も、連絡しようとすらしていなかったんだから。娘の事を真剣に考えていないと思われたんだろう。どんな叱責も、覚悟している。しかし、聞こえてきたのはため息だった。
「……あの子の事でしょ? 色々あったから、私もあなたが大変なのは判るつもり。あの子、帰ってきてからどんよりしちゃってて……もう何日かあなたから電話が来なかったら、こっちから電話しようと思っていたの」
無力感と疲労感が、電話口から垣間見えた。努力を放棄しているという訳ではない。彼女の家族もまた、彼女を支えていた……いや、今現在も支えているのだから。俺一人が彼女を支えていたような気持をもっていた事を、今更ながらに反省する。
「……やっぱり、あの子の傷にはあなたが一番の薬みたいね」
くす、と。彼女に似た笑い方で、義母が笑った。
「それじゃあ、あの子にかわる?」
「あ、いえ、良いんです。そちらに居る確認がとれれば」
彼女とかわろうとする義母を、少し慌てながら止める。
「?」
不思議そうに、義母。
「明日、そちらに直接向かいます」
やっぱり、こういう事はきちんとしなければ駄目だ。それに……声を聞いたら、彼女の姿が見たくて堪らなくなりそうだった。
「……なるほどね。ふふ、あなたらしいかも」
義母は笑って、それじゃあ、と続けた。俺も、はいとだけ答えて受話器を置く。
受話器を置いて、深呼吸。さっきまで沈んでいた気分が、少し晴れたような気がした。 彼女が俺を拒絶するかもしれない。もう、一緒には居られないかもしれない。そんな想像が浮かぶたび、まだ俺は彼女を失ってなんかいないと、自分に言い聞かす。それでも駄目だったら……
「……考えても、仕方ないな」
自分の気持を伝える。それしか、できる事もする事もないのだから。