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雫〜あさき一般的解釈より〜
【純愛 恋愛小説】

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それから数日後。
様々な準備を整えた後に、僕は「芸術家」を名乗る友人に会いに行った。


「自称:友人」
「自称:親友」


そんな輩は腐るほどいたが、彼は唯一、僕が「友人」という単語を口にしても違和感の薄い男だった。
何故なら、話したい時にしか話さなくて済む男だったからだ。


僕が長屋を訪ねると、どうやら足音で感付いていたらしく、待っていたかのように障子がゆっくりと開いた。


「上がるか?」


油脂にベタついて汚れたボサボサ頭のいつもの顔が、絵筆を片手に現れる。

コクりと頷き、履物を揃えて乱雑な物々の中をはい上がれば、白湯と紛うばかりの出がらしの茶を出してくれた。

じんわりと暖かいそれを喉に送れば、彼はベタベタとキャンバスに絵の具を置く作業を再開させたようだった。


「最期の別れに、綺麗な景色を見に行きたいと思うんだが」

窓の外を見ながらぽつりと呟くと、彼は色を板に置きながらもぐもぐと返事を返した。

「最後?……ああ、別れるのか。賛成も反対も出来んが、そうなれば周りも少しは落ち着くか」

「そう願ってるよ」

「自らの立場を、と言い張る君の親の意見もわからなくはない。この社会情勢、人の目に、君の店の跡取りの血は誰もが羨む」

「その血の持主が、こんな絡繰り人形じゃ使用がないだろう? 人間とも呼べない何かでは」

「その答えを世捨て人に期待するのは間違っている。だが質問には答える」



友人はそう言うといったん絵筆をおき、何かを書き散らした紙の裏に細い筆をさらさらと走らせてくれた。



示されたのは山中の一場所だった。
ここから二日ばかり歩いた先の集落から、更に山に入ったところらしい。


「雪月花。それだけで酒が進む場所だ。今の時期なら雪が積もるとなお美しい。花鳥風月の意味を知ることになる」

「それは良いな」

「女連れなら尚更景色を楽しむがいい。
近くの家には知り合いもいるし、一筆書くから舟も貸そうか」

「礼を言う。しかし気前が良いな」


探るように視線を向けると、苦笑される。


「最後の小旅行の手向けだ。少しくらい遠出してゆっくりしても罰は当たらないだろう」

「ああ、最期の旅行くらい、静かなところでゆっくりしたいものだ。ともかく、ありがとう。そろそろお暇する」


「……気が済んだら、帰ってくるのだろうな?」


ポツリと、別れ際の友人の言葉に、重みがついた気がした。


「神隠しに合うのは、子供だ」

「遭うのは、な。」


芸術家は最後まで安堵の表情を見せてくれなかった。



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