addict-9
和子が、うずめていた顔を上げた。
彼女は曇りのない表情になっていた。
「先輩、好きです。言葉で表せない程…大好きなんです。だから…また…」
「して欲しい?」
聡が言葉の終わりを奪った。
和子は一瞬戸惑ったが、顔を赤らめながら頷いた。
聡は窓の方を見た。外は、すっかり闇に包まれている。遠くの道路に、車の赤いテールランプが延々と続いているのが見える。
「取りあえず、ここを出ようか。そろそろ学校が閉まるからね」
和子は幼子の様に手を引かれて暗い廊下を歩いていた。
今が何時なのか全く分からなかった。
今から自分がどうなっていくのかも分からなかった。
でも彼女は幸せだった。
この男といるだけで、喩えようもない至福と、認めたくないが確かな欲情とが和子を支配する。
和子は聡と繋いだ手を見下ろした。
ああ、この人が愛しい、と改めて思う。それは何にも代えがたい気持ちだった。
今、聡が何を考えながら歩いているのか気になったので、聞いてみた。
「先輩…今何か考えてますか?」
聡は振り返らずに言った。
「君と同じ様なことじゃないかな」
また嘘だな、と思いつつもやはり嬉しくて、和子は、聡の手を握る自分の手に少し力を込めた。
この男がもっともっと、自分を溺れさせてくれたらいいと願いつつ。
終