本気-5
土橋修は無言で私を先ほどの空き教室から少し離れた所にある水飲み場まで連れて来ると、ようやくその腕を放した。
「ちょっと、何なの!?」
私は少し苛立った口調で土橋修を睨んだ。
「……悪ぃ。でも、あいつらを二人っきりにしてやって欲しいんだ」
「は? 何で……?」
「これから倫平が沙織に告白するんだ」
うすうす感づいていた言葉を、彼はハッキリ口に出した。
「……あいつが髪をバッサリ切ったのは、お前に対して本当に悪かったと思ったからだ。まあ、沙織にキレられたのが一番こたえたんだろうがな。お前に許してもらうにはどうしたらいいかって聞かれたよ。だから、俺は“髪でもバッサリ切ったらいいんじゃねえの”って適当に言ったら本当に坊主にしてきやがった。バカだろ、あいつ?」
土橋修は、ククッと小さく笑っていた。
だけどすぐに真剣な顔になり、
「でも、あいつはそれぐらい自分のしたことを後悔してるんだ。それでお前に許してもらえないと、おそらく沙織に告白できないって考えてんじゃねえかな」
と言って、先程の空き教室の方角にチラッと視線を移した。
「まあ、結果はどうなるかわかんねえけど、お前は先に帰ってるか?」
壁に寄りかかって突っ立っていた私の横に、彼も同じようにもたれかかってきた。
水飲み場に設置された鏡に二人並んだ姿が映る。
「どうしよう……。帰ってた方がいいのかな」
「帰ってるんなら俺が後で伝えとくけど?」
「でも……結果も気になるし……」
鏡に並んだ自分と土橋修の姿がなんとなく気恥ずかしくて、下を向きながら言った。
「石澤、お前はどうなると思う?」
「私は……大山くんが振られると思う」
こないだ沙織とマックでおしゃべりした時の様子を思い出すと、結果は目に見えていた。
「……実は俺もそう思うけど、それだとあまりに倫平がかわいそうだから、あの二人は付き合うに鈴木屋のシュークリーム一個な」
「何それ」
私は唐突な土橋修の言葉に驚いて、彼の顔を見上げた。
「どうせ沙織のこと待ってんだろ? ただ待ってるのも暇だし、どっちの予想が当たるか賭けでもしようぜ」
彼は先ほどの真剣な表情とは打って変わって、ニカッと白い歯を見せて、いたずらを企む子供のような笑みを私に向けた。