本気-2
視界に入って来たのは、少し緊張したような面持ちの土橋修だった。
「よう」
土橋修は廊下の壁にもたれかかっていたが、私達に気づくと小さく手を上げて、こちらに歩いてきた。
「修……」
私が何か言うより早く、沙織が土橋修の名前を呼ぶ。
「沙織、ちょっと時間あるか?」
土橋修は頭をガシガシ掻きながら言った。
「え……でも……」
沙織は、戸惑った顔で私の方を振り返る。
私はなんとなく邪魔をしてはいけない気がして、
「あ、いいよいいよ。私、今日は先に帰るから!」
と、必要以上に明るい声を出して、二人の脇を通り抜けてその場から離れようとした……その時。
「あー……、石澤も、一緒にいいか?」
数日ぶりに会った土橋修は、よそよそしい話しぶりで私にも声をかけてきたのだ。
初めて「石澤」と呼ばれたことが、なんとなくくすぐったく感じた。
◇ ◇ ◇
土橋修は、私と沙織の数メートル先を歩いていく。
沙織は時折不安そうな顔をこちらに向けるけど、お互いなんとなく言い淀むばかりで、結局黙って土橋修の後ろを歩いていた。
私の高校は三階建てで、一階が三年生、二階が二年生、三階が一年生とクラスが振り分けてある。
一学年は通常七クラスまであるけれど、私達二年生がこの学校に入学する年に、市内に私立高校が新設されて、そちらに受験生が流れてしまったので、私達の学年から生徒数が定員割れしてしまい、二年生と一年生は五クラスずつになってしまった。
必然的に使わない教室ができ、先生も生徒もあまり近寄らない寂れた空間になってしまった。
土橋修は、私達をその空き教室の一つへと連れてきた。