加害者-3
夜、私はいつものように早坂さんと電話をしていた。
他愛ない話しをした後、また旅行の話題を出してみる。
「いや、旅行はいいけどさ、お前行きたいとことかあんの?」
「え?んーと…、草津温泉とか下呂温泉とか…」
「温泉行きたいの?」
「え、いや、そうでもない…行きたい所とか、よく分かんない…」
「は?なにそれ」
「…晃佑さんさ、愛してるとか言うわりに、セックス以外の事しようとしないよね。
本当はやりたいだけなんじゃないの?
いっつもいっつも浮気してないか疑うし、
本当に愛してるんだったら、もっと色んなことしたり、信じてくれたりしてもいいんじゃないの?」
そっけない早坂さんの態度に腹が立って、つい言わなくてもいい事を言ってしまった。
「お前さ、自分が可哀想な立場だと思ってるの?」
「…え」
「俺さ、付き合う前から、お前の事すっごい好きでさ、
なのに、毎日毎日セフレとのセックスの報告だの、彼氏の話しだの聞かされてさ。
毎日毎日、今日も違う男としてるんだろうなって…
不安なんだよ。何でわかんねーの。
それに、お前さ、彼女とか奥さんいる男ともヤってたんだろ。
そいつらの気持ちとか、考えた事ある?
お前が気づいてないだけで、お前の行動に傷ついてる人間がいるんだよ。
お前は、被害者じゃない。」
早坂さんは些か感情的になりながら、一気に言った。
私は、泣いた。論点がどんどんずれていってるな、と頭の端で思いながらも、
苦しくて、悲しくて、恥ずかしくて、泣いた。
嗚咽は早坂さんにも聞こえていたと思う。
早坂さんは何も言わず、私の嗚咽を聞いていた。
私が泣いても、私のしたことは悪いことに変わりはない。
大人になった私は、泣いても泣いても、
被害者にはなれないんだ。
月の出ていない春の夜、私は涙が出るのに任せて、いつまでも泣き続けた。