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アンバランス×トリップ
【ファンタジー 官能小説】

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赤い眼-9

「っ……!?」

ガキィッ

 一気に片をつけようと振るわれたカリオペの短剣は、少年の持っていた箒の柄で遮られる。
 偶然じゃない……少年は自らの意思で動いてカリオペの一撃を防いだのだ。
 ギリギリと押し合いをした2人は、同時に後方に跳び退く。

(……やるじゃん?)

 カリオペは仮面の下で唇を舐めた。
 人の死に際も好きだが、命懸けの戦いはもっと燃える。
 逃げるかと思ったが、少年は箒を握り直してニヤリと笑った。

ガカッ

 瞬間、カリオペが投げたダガーが2本、少年の背後の壁に刺さる。
 カリオペが動いたと同時に横に走った少年は、キュッと方向を変えてカリオペに向かった。

ギャリッ ガツッ

 箒と短剣が交差する度に木片が飛び散る。
 少年の動きは悪くない……というか、良い勘をしている。
 カリオペが次にどう動くかを本能で感じ取り、反射的に動く。
 独学でここまで動けるとは大したものだ。
 磨けば相当強くなれる……ただ、残念な事に武器の殺傷力と経験値が違い過ぎる。

ガツンッ

 カリオペの短剣が箒を掬いあげ、少年の手から吹っ飛んだ。
 カラカラと乾いた音を立てて転がる箒を目で追ってしまったのが運の尽き。
 その一瞬の隙をついたカリオペに足払いをかけられた少年は、無様に仰向けに倒れた。
 カリオペはすかさず少年に股がり、首に短剣を当てる。

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 少年の口から荒く白い息が漏れていたが、その口は楽しそうに笑っていた。

「?」

 正に殺されようとしているのに何故笑っているのか?
 カリオペは今までにない相手の反応に少し戸惑ってしまい、短剣をこれ以上動かせなかった。

「ハァ……ハァ……完敗だ……あんた強いな……」

 カリオペが動かないので少年が話出した。

「ハァ…俺な……結構つらい生き方してんだよな……」

 知ってる……ずっと見ていた。

「死んだり壊れたりしていく仲間も沢山居たし……間近で見てきたけどさ……」

 少年は一度言葉を切って呼吸を整える。

「やっぱ……生きてたいなって……思った……」

 生きてればいつか良い事がありますよ、なんて楽観的な事を考えているワケではない。
 一生奴隷で、死ぬまでこんな生き方だとしても……死ぬのは逃げてるみたいで嫌だ。

 カリオペと同じように『死』を間近にしながら、少年は『生』を感じていた。
 死に際の人間に、迫る『死』ではなく、最期まで輝く『生』を見ていたのだ。
 カリオペには見えなかったものを、少年は見ていた。


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