赤い眼-8
一通りの情事が終わると少年は満身創痍の身体を引きずって部屋を出て行った。
それを確認したカリオペは懐からワイヤーを取り出して隠れ場所から出る。
女主人はバスルームで鼻歌を歌いながらシャワーを浴びていた。
カリオペは気配を消して背後から近づき、ヒュンッとワイヤーを翻す。
「ヒッ」
声をあげる間も、抵抗する間も与えずワイヤーは女主人の熟れた身体をがんじがらめにした。
女主人は驚愕の顔で目の前にある姿見を見るが、自分の身体が邪魔で背後に居るカリオペは見えない。
「かッ……は……っ?!」
ギリギリとワイヤーが身体に食い込み、ブツブツッと肌が裂けていく。
女主人の口から舌がこぼれて、目がぐりんと上を向いた。
カリオペはクイッと手首を捻り、天井へと跳び移る。
そして、磔を越えて反対側に飛び降りた。
ブッ
鈍い音の後、ゴトンゴトンと重いものが落ちる。
同時に凄まじい量の血液がシャワーカーテンを濡らした。
カリオペはカーテン越しにそれを眺め、血流が治まってからカーテンを少し開ける。
血の海に浮かぶ肉塊は、女主人の成れの果て。
首も腕も脚も……ワイヤーが食い込んだ場所から切り離された肉塊はピクピク痙攣していた。
しっかりと仕事達成の確認をしたカリオペは、直ぐ様現場を去る。
らしくない殺り方をした。
ゆっくりと殺るのが良いし、あんなに血を流すのも嫌いなのに……。
(……なぁんかムカついたのよねぇ……)
何にムカついたか分からなかったが、妙に腹が立った。
出来るだけ苦しめて痛い思いをさせたかった。
カリオペは少し首を傾げながら、まあ良いかとこの事を忘れる事にする。
……が……
何故かターゲットになる奴の所に、ことごとくあの少年が居たのだ。
(……運が良いのか悪いのか分かんない……)
ろくでもない奴ばかりに買われて運が悪いのか、その度にそいつが殺されて運が良いのか……微妙な所だ。
ある時は肉体労働用に家畜同然の扱いを受け、ある時は怪しげな薬の被験者……普通だったら精神が壊れて廃人になってもおかしくないのに、少年は壊れる事なくカリオペの前に現れた。
その度にカリオペが飼い主を殺すので、まるで正義の味方になった気分だ。
少年専属の正義のヒーロー……一方的だったが悪くない。
いつしかカリオペは仕事先で少年を探すようになっていた。
そんな日々が続いたある日……恐れていた事が起きた。
少年に現場を目撃されたのだ。
「っ?!」
油断していたわけではない……少年の方が気配を消していたのだ。
物心ついた時から暗殺者として生きてきたカリオペが気づかない程、見事な気配の消し方。
驚いて振り向いたカリオペの手には血に濡れた短剣……その前には今にも息絶えそうなターゲット……更に黒づくめに白い仮面の自分……どう足掻いても言い訳出来ない。
カリオペは仮面の下でギリッと歯噛みして少年との間合いを詰めた。