赤い眼-2
「素直に緊縛プレイって言えば?」
「どこが素直なのよぅ〜」
カリーはため息をついてソファーに深々と背中を預けた。
「なあ、前も聞いたけど……何で脱走したんだ?」
カリーはスランの方を見て首を傾げる。
「そりゃあ、まあ、良い仕事とは言えねぇけど食うには困らねぇし……俺はこの仕事好きだがな」
ちびちび酒を飲むスランにカリーは少し笑って答えた。
「そうね、私も仕事は嫌いじゃなかったな……」
自分の手で他人の人生を終わらせる瞬間は妙にゾクゾクして、快感に近いそれに病み付きになった。
「なのに脱走?分かんねぇなあ……そんなにあのチビは魅力的か?」
スランの言葉にカリーは両膝を抱えてその上に顔を乗せる。
「……ゼインを初めて見たのは10年以上前になるのかなぁ……」
カリーは指で足の爪を弄りながら記憶を辿った。
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とある街の広場にあるベンチで、ふわふわの黒髪を2つに括った少女が脚をぷらぷらさせていた。
浅黒い肌に良く似合う薄いピンク色のワンピースがひらひら揺れて穏やかな風景だ。
しかし、その少女は暗殺集団シグナーに所属する暗殺者。
いつものようにターゲットを下調べした少女……カリオペは、嫌な顔で資料を見ていた。
「ホモのうえにショタって……キモッ」
世の中にはこんなに可愛い女の子が居るのにねぇ?とカリオペは足元に居る猫に向かって首を傾げる。
猫はミャと適当に答えると前脚で顔を洗った。
その喉を足先でくりくりしながらカリオペは再び資料を見た。
(……やっぱ殺るなら夜かな……ゆっくりと死を味わってもらおっと♪)
資料を綺麗にたたんだカリオペは、それを懐になおしてから出店で買ったシェイクに口を付ける。
それは買い物をしている母親を待っている少女……そんな風にしか見えないのだが、その少女の頭の中は今夜行う凄惨な殺害の様子が思い描かれていた。
「ヒュー……ヒュー……」
小太りの中年男の喉から空気が漏れて渇いた音をたてている。
中年男は喉を切り裂かれ、声が出ないようにされていた。
喉の傷からはゆっくりと血が流れている。
時間をかけた失血死……それがカリオペが選んだ殺り方。
ご丁寧に両足の腱も切られて動けないこの中年男は、緩やかに迫る死から逃れられない。
中年男は濁った虚ろな目でカリオペを見ていた。
カリオペはそれを立ったまま見下ろし、白い仮面の下で笑顔を作る。
この瞬間が好きだ……瞳から光が消える瞬間……人間がただの肉になる瞬間。
その瞬間、コイツが見てるのは自分だけ……コイツが人生を終らす最期の時に見るのは、この赤い眼。
そう思うと身体がゾクゾクして火照ってくる。
この場で全裸になってオナニーしたいくらいだ。
その時、背後で物音がしてカリオペはその場から姿を消す。
消すと言ってもジャンプして天井裏に身を潜めるだけだ。