赤い眼-11
(……あ……)
そこで仰向けで横たわっているのは、あの少年だった。
ドクンと心臓が跳ねて落ち着きなく脈動する。
(ど、どうしよっ?!)
濃い血の臭いの元は少年みたいだし、微かに上下している胸で生きているのも分かるが……。
(あ!!そうだ!!)
カリオペはしゃがんでポケットから小さい箱を取り出し、ごそごそする。
それは茶色のコンタクト、カリオペの赤い眼に使うと赤茶色っぽく見える。
カリオペの眼は特徴的なので勘の良い少年が見たら気づくかもしれない、と考えての偽装。
別にバレても良いじゃん?という自分も居たが、何となく知られたくなかった。
完全に変装したカリオペはそっと少年に近づく。
少年はカリオペと戦った時のように、荒く白い呼吸を繰り返していた。
違うのは目……常に蒼く燃えていた目が濁っていたのだ。
その目はぼんやりと空を見ていた。
「……ね?大丈夫ぅ?」
カリオペは少年の横にしゃがんで、空を傘で遮る。
少年は傘越しに空を見たまま何も答えなかった。
「怪我してるの?」
問いかけに全く反応が無いのでカリオペは軽くため息をついて傘を閉じ、少年の横にベシャッとお尻をついて膝を抱えて座る。
血まみれだが殆どが返り血のようだし、怪我はしているみたいだが生きてる。
カリオペは少年と同じように空を見上げた。
(……一緒に居たら見えるようになるかな……)
少年が見ている世界、少年が感じている『生』を。
そんな事を考えていたらだんだんと小雨になっていき、雲間から太陽が顔を出してきた。
太陽の光が顔に当たった時、少年が片手を上げて手の平を見る。
「……何で生きてんだろうな……」
少年の口から出たのは彼らしくない言葉。
カリオペは少しがっかりした……いつでも『生』にしがみついていた少年も遂に壊れたか……そう、思ったのだ。
「さあねぇ、死にたく無いからじゃなぁい?」
カリオペの返事に少年は驚いたように顔を向ける。
「……誰……?」
「ん?どうでも良いじゃん?何か死にかけてるみたいだから?看取ってあげよっかな〜ってさぁ」
カリオペの適当な返事に、少年は少し笑った。
笑えるなら壊れてはいないな、とカリオペは安堵する。
「……変な奴」
「お互い様〜」
血まみれで倒れてる方がよっぽど変だ、とカリオペは返した。