赤い眼-10
「なのに何でかなぁ……あんたになら……良っかな」
少年は本当に楽しそうに笑って続ける。
「あんたの眼……綺麗だから……まあ……良っか……」
少年は眩しそうに目を細めて、笑ったままその目を閉じた。
カリオペは無言で短剣を振り上げる。
ガツッ
振り上げられた短剣は少年の頭に直撃……但し、刃ではなく柄の部分が。
少年はあっさりと昏倒し、カリオペは逃げるようにその場を去った。
(……いいなぁ……)
同じように『死』を間近にしながらも『生』を感じるその感性……カリオペは少年が羨ましい……と思った。
だから、殺やらない……きっと、殺れない。
その日を境に、カリオペは人の死に際にエクスタシーを感じる事が出来なくなった。
少年の見ている『生』を感じてみたい……その気持ちの方が強くなったのだ。
更に仕事の不手際も増えた。
そんなカリオペの変化に頭領達も気づいていたが、厳重注意だけで特別理由を聞いたりの踏み込んだ事はしない。
ちなみに、厳重注意は拷問に近い体罰だったが、別に苦にはならなかった。
あれ以来、少年に会う事は無かった……それでもカリオペの頭には何時も少年の目の奥にある蒼い炎があった。
いつか少年の見ている『生』を見てみたい……カリオペはそれだけを考えていた。
そうして2年の月日が流れる。
いつも通り依頼主の所へ行ったカリオペは、思っていた以上に早く仕事が片付いたのを良い事に街をぶらついていた。
そこで怪しげな薬を見つけて試してみたのだが、悪寒はするわ動けなくなるわ……終いには身体の色が抜けるわで驚きの結果となった。
「わぁお」
鏡に映る姿は正に別人で面白い。
黒い髪は金髪だし、浅黒い肌は真っ白だし……眼の色は変わらなかったが副作用さえ無ければ色々使えるだろう。
「えっと……サンプルだから効き目は半日か……アジトに帰るまでには元に戻れそうね♪」
カリオペは薬瓶に書いてある説明文を読んでそれを懐に入れる。
せっかく別人になったなら楽しんだ者勝ち。
カリオペは意気揚々と街に繰り出したのだった。
雨が激しく降る中、傘をさして鼻歌を歌いながら歩いていたら嗅ぎ慣れた臭いが鼻についた。
(血の臭い?)
何となく臭いをたどっていくと、街から大分はなれた場所に出た。
そこは、小さく白い花が一面に咲いている草原。
丸っこい可愛らしい花の群生の中心辺りに、人が寝ているのが見えた。