恋に変わるとき-5
どこまでもコイツはこんな風にヘラヘラしていて、動揺一つしないで。
あたしだけがコイツにドキドキさせられっぱなしで。
結局、あたしだけがコイツを一方的に好きになってしまったんだ。
剥き出しの足の甲に涙がポツリと落ちた。
そう、やっと気付いた。
――コイツに対する変な気持ちの正体は、恋だったんだ。
「って、お前何泣いてんの!?」
臼井陽介が慌ててあたしの目の前に駆け寄ってきた。
自分の気持ちに気付いてしまうと、涙は滂沱のごとく流れ始めて止められなくなってしまった。
あたしだけがコイツをこんなにも好きになってしまったと言うのに、コイツは至って飄々とジョークとして流せる、その温度差が悔しかった。
「……ホンット、ムカつく」
振り絞って出した声は、低くて暗い。
「は?」
「なんでそんな軽く受け止めてんのよ」
「何がだよ」
「キスされそうになったってのに、なんでそんなにヘラヘラしてられんのよ!
こっちは、ずっと変な気持ちの正体がわかんなくて悩んでて、あんたの一挙手一投足にドキドキさせられっぱなしで、心乱されまくってたってのに……」
目をグリグリこすってから、あたしは目の前の臼井陽介を思いっきり睨んだ。
「あんたのこと好きになっちゃったから、キスしたくなったのに、あんたがデリカシーなく茶化すからムカついてんのよ!」
「え?」
怒りながらの告白に、臼井陽介は目を見開いて固まっていた。
チクショー、こうなりゃヤケクソだ。
「好きだからもっと触れたくて、キスしそうになったのよ!
そりゃ、超がつくほどの女ったらしで、セフレが何人もいるようなあんたにしてみたら、キスなんて挨拶みたいなもんでしょうけど、あたしにとってはもう決死の思いで……」
それ以上は上手く言葉を紡げなかった。
目の前には臼井陽介の長い睫毛。掴まれた両肩。
そして、唇に温かく柔らかい感触。
気付けばあたしは臼井陽介に唇を塞がれていた。