ネクロフィリアの夜-4
痛いのかどうなのか、わからない。
肩に注射が打たれ、腕の感覚が消えた。
グシャ、グシャ。
パキン、パキン。
むせかえるような、血の匂い。
両手と両腕の肉が裂け、骨が砕かれる音が耳元で鳴り響く。
男はまだ狂ったように腰を振っている。
ギッギッ、とのこぎりを引く音も聞こえた。
肌の下にあるものの色を、あたしは初めてこの目で見た。
ブスだの美人だの言ったって、
皮一枚めくればきっとみんな同じ。
なんだか、おかしくなって笑いがこみあげてくる。
ああ、素敵よ。
最高だよ。
観客の声がする。
あたしの上にのっかっている男は、もう顔を真っ赤にして絶叫している。
胸にナイフが当てられた。
真っ赤な筋が引かれる。
黄色い脂肪がはみだした。
また、拍手が起こる。
うれしい。
死にそうに痛いけど、でもこんなふうにみんなにみてもらえるなら。
ああ、痛い。でも気持ちいい。
あたしはそっと目を開いて、腕があったはずの場所を見る。
そこには気を失いそうな痛みと血だまりがあるだけで、
肩から先が消えている。
どくどくと流れ出る血液のせいか、すごく寒い。
焼けるような痛みと、強烈な寒気が交互にやってくる。
観客たちをみる。
いつのまにかみんな裸になっていて、
あたしの腕だったものに性器をこすりつけたり、
胸だったはずの肉片を性器の中へ押し込んだりして、
血みどろの中で本当に楽しそうだ。
頭が、ずっしりと重い。
あたしは、いま、どこにいるんだっけ。
何人かの男たちが、あたしのまわりにまたやってきた。
今度は鋭いナイフであたしの耳を削いだ。
ズズッ、と音がした。
あとは、なにも。
もうなにも聞こえない。
あたしをののしる声も、悪口も。
救われた。
そんな、気がした。
あたしの耳だったものは、やっぱりみんなのもとで可愛がられている。
口の中にいれたり、おもちゃにされて。
ああ、幸せ。
つぎは足を砕かれて、切り落とされた。もうほとんど感覚はない。
今度は鼻を。
なんだっけ。
いま、あたし、ここで、何を。
ああ、あたしはいま、みんなの人気者だ。
つぎつぎに与えられる苦痛の中で、薄れゆく意識のなか、ぼんやりと思いだす。
契約した時にきいた、男の言葉。
あなたの意識が無くなって、身体だけが残った後も、我々は一晩中、
あなたの身体で楽しませていただきますよ。
だから、さびしくないでしょう
ああ、そうだ、さびしくない。
あたしは最後に残った力で、微笑もうとしたけれど、
顔の皮も剥がされてしまったから、うまく笑えたかわからない。
みんなの歓声の中、
あたしの意識は暗闇の底へ堕ちていった。
(おわり)