沙織と土橋修-1
「え、なんで急にそんなこと言うの?」
沙織は顔を真っ赤にしながら目を泳がせたり、手を団扇がわりにして、顔の前でヒラヒラと扇いでいる。
「うーん、土橋くんをやたらかばってるのが何か怪しくて。でも当たりでしょ、動揺し過ぎ」
そんな沙織がやけに可愛くて、ニヤニヤと彼女を見つめながらアイスコーヒーを口に含んだ。
「うん……。でも、昔の話だよ。あたし、一年の時に修に振られてるし」
その言葉を聞いた瞬間、アイスコーヒーが気管に入り込んでしまい、ゲホゲホとしばらくむせ返ってしまった。
「桃子、大丈夫!?」
沙織は急いでカバンからポケットティッシュを取り出すと私に渡した。
鼻の穴にまでアイスコーヒーが入ったらしく、ツーンと痛む。
「だ、大丈夫だけど……それより、そんなの初耳!!」
私は涙目でポケットティッシュを口にあてながら、興奮気味に言った。
「うん……、黙っててごめんね」
沙織は白くて細い指先をもぞもぞといじりながら詳細を語り始めた。
「あたし、一年生のときに修と同じクラスで、みんなでワイワイ仲良くやってたってのは知ってるでしょ。修は、無愛想だし怖そうな人だなって最初は思ってたけど、いざ話してみると面白いし、いい奴だった。でも、そのときはホントに意識もしなかったし、ただいい奴なんだなあ〜って思ってただけだったのね。
で、去年の12月あたりに……あたし、2個上の人から告白されたんだ。でも全然面識無いし、ちょっと怖そうな人だったから断ったのね。
そしたらその人、ストーカーっぽくなっちゃって、学校でも学校帰りでもやたら顔合わせてくるし、そのうち家や携帯番号とかメルアドまで調べられたみたいで、家の近所で待ち伏せされたりイタズラ電話やメールがひどくなって、怖くて修に相談したの。
そしたら修、そのストーカーの人の所に話つけに行くって言ってくれてさ。その人に諦めてもらうため、修と付き合ってるふりして、一緒にその人の所に行ったの。でもその人、めちゃくちゃキレだして……。いきなり修に掴みかかってきたの。
修を何発か殴ってから今度はあたしの襟ぐり掴んで、殴りかかる寸前だった。でも修は必死にかばってくれて、あたしが怪我しないように必死で守ってくれたんだ。
この騒ぎで、先生達が来てくれたからその場はなんとか収まったんだけどね。修に申し訳なくて何度も謝ったけど、“もう気にすんな”の一点張りで、多分体とかめちゃくちゃ痛いはずなのに余裕な顔してさ。