沙織と土橋修-5
夕焼けに照らされて、銀色の自転車が黄金色に映る。
自転車のペダルに足をかけ、進もうとしたその時。
ふと、土橋修に掴まれた右腕が視界に入り、左手でそっとなぞった。
女の子とは違った、ゴツゴツと骨ばった力強そうな大きな手を思い出すと、掴まれた場所が妙に熱く感じた。
土橋修は郁美と話し合うと言っていた。
郁美からの頼まれ事も思わぬ形で解決できたし、明日からはまたいつも通りの日常に戻れるのだ。
アイツとは、もう話をしなくてもいいんだ。
私はホッと安堵のため息をもらした。
なのに。
なぜか鼻の奥がツンと痛み、ジワッと目の奥から涙が滲んでくる。
私に最後に笑いかけたアイツの顔が勝手に浮かんで、胸がチクリと痛む。
厄介ごとが解決したから喜ぶべきなのに。
どうして晴れ晴れしい気持ちになれないのか、自分でもわからないまま、ペダルを漕ぎ始めた。