沙織と土橋修-4
「ふ〜ん、そんなこと頼まれてたの。でも、あの修がヤリ捨てなんてやっぱり信じられない。元カノさんが嘘ついてる可能性はないの……?」
「私は……、めったに泣かないあの娘の涙が嘘とはどうしても思えない」
郁美の静かに涙をこぼす姿が再び脳裏によぎる。
「でも、あたしは修の人柄を桃子に誤解されたままってのも嫌だし……。ねえ、桃子? やっぱり桃子も修と友達になって、もっとたくさん話してみてよ。あたしも元カノさんを本当にヤリ捨てしたのか真相を知りたいから」
私はしばらく黙り込んで白い天井を仰いだ。
ヤリ捨てするような卑怯な男であってほしくないと願う沙織の気持ちが、いつの間にか私の中でも芽生えていた。
昼休み、最後に私に笑いかけてくれた土橋修の姿がなぜか再び頭の中に浮かぶ。
「私も、郁美サイドの話しか聞いてないから、誤解してる部分もあるかもしれないね。今日、土橋くんと話してみたら見た目ほどそんなに怖くなかったし、いい人かもしれないって思ったよ」
「でしょ!? じゃあ桃子も……!」
沙織は目を輝かせて私の顔を見るけど、静かに首を横に振る。
「でも、友達になるのは気が進まない。だって、大山くんと仲良いんでしょ? 私、あの人もう勘弁してって感じなんだけど」
沙織の顔はすぐさま苦笑いに変わり、
「あ〜、やっぱりねえ。あたしも大山くんがいると、修と話づらいしなあ……」
と、頬杖ついて思いっきりため息を吐いた。
その後は、特にこの話に進展はなく、あとは他愛もない話で盛り上がったりしていた。
「じゃあね、桃子。また明日ね」
「うん、今日はおごってくれてありがと」
長居をしてしまって、店を出ると綺麗な夕焼け空になっていた。
私は、沙織が赤い自転車に乗って漕ぎ出すのを見送ってから、ようやく自分の自転車にまたがった。