沙織と土橋修-3
「……沙織がずっと彼氏を作らなかったのってもしかして、今でも……」
私が、沙織の話を聞いて湧き上がった疑問を口にすると、慌てて首を横に振り、
「あっ、それは無いよ。そんな不毛な片思い続けるほど我慢強くないし、ただ単に修より好きになれそうな人がいないだけ」
と、否定した。
「……まあ、昨日の桃子の話で修に彼女がいたってわかったときは少し切なかったけどね。でも、あたしと修は、友達でいるって決めたんだもの。だからこの先修が誰と付き合ったとしても、ちゃんと祝ってあげるんだ」
沙織は一瞬淋しそうな顔をしたけど、すぐに気を取り直したみたいにいつもの明るい笑顔になった。
「そっか」
この娘にここまで思われる土橋修はなんて幸せ者なんだろう。
同時に、全く報われる可能性が無いとわかった大山倫平が、少しだけ気の毒になった。
「だから、例えば桃子が修を好きになって、付き合ったとしてもあたしは応援するよ」
沙織の何の気なしに言った例え話が、私の顔を急激に熱くさせた。
「なんで、そんな例え話すんの!?」
「あ、別に深い意味は無かったんだけど……。それくらいあたしは気持ちを割り切ったんだって意味だよ」
私の剣幕に、沙織は少し驚いていた。
「そ、そう?」
「あ、でも意外といいかも! 桃子と修のカップル」
沙織は無邪気に手をポンと叩いて目を輝かせている。
「もー、適当なこと言わないでよ」
私は動揺を悟られないようにすっかり冷め切ったチキンフィレオを一気に食べ出した。
「適当じゃないよ。桃子と修ってなんとなく相性よさそうだし、いいコンビになれると思ったんだけどなあ」
「どこが!?」
私は再び昨日の土橋修の怒ったときのことを思い出しながら思いっきり否定した。
「あのね、修って仲良くなるとすっごく話しやすいけど、実は人見知りするのね。その修がわざわざ桃子と二人っきりで話したってのが意外でさ。まあ、付き合うとかの話はさておいて、桃子も修とまずは友達になると楽しくなると思うんだけどな」
「いいよ、私は。遠慮しとく」
「また始まったあ、桃子の人見知り。今日、桃子が修と話をしたって教えてくれたとき、すごく嬉しかったのに。桃子も男の子とちゃんと話できるんだってね」
「だからそれは、土橋くんは元カノの話を聞くため仕方なく私と話しなければならなかったんだよ。私だって郁美からセッティング頼まれてなければ、絶対話なんてしなかったもん」
「セッティング?」
沙織が不思議そうな顔をしたので、私はこないだ郁美と会った時の話を簡単にした。