隠し事-1
カリーは洗面所で鏡と向かい合っていた。
蛇口からは水が出しっぱなしでジャージャーと音が鳴っている。
目の前の鏡には勿論自分が写っているが、良く見るとほんの少しいつもと違う事が分かる。
明るい金髪の生え際が少し黒くなってるし、いつもは白い肌が日焼けしたような色になっている。
カリーはため息をついて手の中で弄んでいる小瓶に視線を移した。
小瓶の中には錠剤が入っており、カラカラと音をたてている。
そろそろ薬を飲まないといけないのだが、この薬は嫌いなのだ。
飲んだら急激に体温が下がり、10分ぐらい動けなくなる。
カリーは小瓶を親指で弾くと空中でパシッと握った。
意を決して小瓶の蓋を開け、薬を1錠手の平に乗せる。
ゴクン
水と共に錠剤を飲み込んで両手を洗面台について俯いた。
ドクンッ
「ん!?…はっ……」
心臓が跳ね上がって大きく脈動する。
体から急激に温度が消えたのに汗が吹き出した。
「ううっ」
カリーは右手で口を押さえてしゃがむ。
「おーい、カリー」
(……ばっとたいみ〜んぐぅ……)
一番キツイ時に限ってゼインがドアをノックして呼びかけてきた。
いつもなら弱みを晒して甘える所だが、今はそうもいかない。
「ご〜み〜ん……何か船酔いみたいぃ〜トイレは他当たってぇ〜」
カリーは適当に言い訳をして洗面所に籠る。
「大丈夫かぁ?」
「薬飲んだから〜直ぐに効くと思うぅ〜」
(っていうか、薬飲んだからこうなってんだけどねぇ〜)
そう自分にツッコミつつカリーはゼインが何処かに行ってくれるのを祈った。
「そっか、ゆっくりしとけよ?ポロと甲板に出とくから」
「分かったぁ〜ありがとぉ」
「ポロ、いつまでドアに張り付いてんだ……行くぞ」
どうやらポロはカリーを心配して洗面所のドアに張り付いていたらしい。
カリーはクスリと笑って立ち去る2人の足音を聞いていた。
3人はワクチンを街に届けたお礼に貰ったチケットで船旅を楽しんでいる。
目的は島国ファン……魔法使いを探しに行く為だ。
ゴイスの街から近い港からはファンまで2日かかるらしい。
せっかくの無料チケットなので贅沢してちょっと良い船にした。
おかげでのんびりと船旅が楽しめる。