隠し事-8
「……船とファンではお互い傷つけないってのはどう?」
逃げ場の少ない空間でいつまでも気を張るのは疲れる。
せっかくの船旅だしどうせなら楽しみたい。
「……良いけど、今晩付き合えよ?」
「はぁ?」
お互い傷つけないのが条件なのに何故更に条件を飲まないといけないのか、とカリーは嫌な顔になる。
「俺の方が強いのは分かってんだろ?条件飲まなくても俺はお前に傷つけられるような間抜けじゃねぇよ?」
スランにとってこの条件は一方的過ぎると言っているのだ。
「俺はお前らに手を出さない、代わりにお前がひと晩付き合う、これが正しい交換条件だ」
スランはダガーを指でくるくる回した後、その切っ先をカリーに向けてピタリと止める。
カリーは切っ先越しにスランを睨んだが、彼の言い分は正しい。
「……中出し禁止……」
カリーの答えにスランは大笑いしながらダガーを懐に直した。
その頃、ゼインは甲板でポロに簡単な護身術を教えていた。
さっきみたいに絡まれて、近くにゼインもカリーも居ない場合は自分で何とかするしかない、とポロが自ら志願してきたのだ。
自分はもうなすがままになっていた奴隷じゃない、自分の意思で道を開きたい。
イキタイ……そう思ってからポロは大分人間らしくなってきた。
「さっきはどうも」
そんなゼインとポロにスランが声をかけて近づく。
「はあ、どうも」
ゼインは怪訝な顔でスランを見て微妙な返事をした。
「なあ、ぶっちゃけて聞くけど、カリーとは恋人?ヤッてんの?」
ホントにぶっちゃけて聞いてきたな、と思いつつゼインは息を吐く。
「ヤッてるけど、恋人じゃねぇよ」
ゼインの答えにスランは満足そうに笑い、ポロは少し顔をしかめた。
「なら誘っても良いよな?」
「お好きにどうぞ」
何をわざわざ確認しているのか、とゼインはイラついて素っ気なく答える。
「ふぅん……」
スランはゼインを見ながら人差し指でトントンと顎を叩いた。
ゼインの反応は正直、微妙。
カリーの事が好きなら少しは動揺するとか嫉妬するとかの反応があっても良さそうだが、それは無い……のクセに不機嫌なこの態度はどう取ればいいのか……と、ここまで考えたスランは「俺は何をやってるんだ」と我に返る。
「んじゃ、遠慮なく」
スランはくるりと踵を返すと、ヒラヒラ手を振って立ち去った。
「何なんだ、アイツは」
カリーが気に入ったんなら誘えば良い、いちいち一緒に旅をしてる男に許可をもらう必要なんか無い。
(もし、俺とカリーが恋仲で俺が激怒したらどうするつもりだったんだ?)
良く分からない男だ。
スランもゼインと全く同じ事を考えていた。
気に入った女が居たら抱けばいいじゃないか、何で女が気に入っている男に探りを入れたりする必要がある?
スランはガシガシ頭を掻いて自分の不可解な行動に頭を捻るのだった。