隠し事-2
「カリーが船酔いって珍しいなぁ……」
甲板に出たゼインはベンチに座ったポロにお茶を渡す。
ポロは顔を客室への入り口に向けてからゼインを見上げた。
その顔は「大丈夫かな?」と、いった所だろう。
「ま、薬飲んだらしいしな……元気になったらなったで煩くなると思うぜ?」
静かな今の内にゆっくりしておこう、と言うゼインにポロは軽く頷いてお茶に口をつけた。
(ふうん……)
その会話を盗み聞きしていた男……スランは手すりに背中を預けたまま目だけを客室への入り口に向ける。
彼の肩には例の鷹が止まっており、優雅に毛繕いをしていた。
スランはメモ紙にゴイスの街の名前を書いて鷹の脚に付いている筒に入れる。
いつものように3人の居場所を少し遅れて報告……スランは飛び立った鷹を見送ると客室の方へと歩いて行った。
「はっ……はっ……」
その頃、カリーは洗面所の床に座り込んで悪寒に耐えていた。
身体はガタガタ震えて止まらないし、そのくせ汗は吹き出すし。
こんな時は誰かに……出来る事ならゼインに抱き締めてて貰いたいなぁ……とカリーは弱気になる。
「……やっぱりな……」
何の前触れもなく目の前に男が居た。
「はっ……?!あ?」
男……スランは床に転がった小瓶を拾って手の中で転がす。
「アンタ?!」
カリーは跳ねるように立ち上がるが、上手く動けずに身体がぐらりと傾いだ。
「おっと」
スランは手を伸ばしてカリーを抱き止めてその身体を腕の中に収める。
「嫌っ…!離っ」
「無理すんなって……『脱色』飲んだんだろ?」
スランの言葉にカリーはギクリと身体を強張らせた。
「……これキツイよなぁ……落ち着くまで何もしねぇから……大人しくしとけよ、な?」
優しく頭を胸に押し付けられ、背中を撫でられたカリーは少し拍子抜けする。
(何を甘い事を……)
この男はポロの命を狙っていた暗殺者だ……しかも、カリーのファーストキスを奪った憎き男……なのにスランの腕は優しくて心地よくて……。
(く・や・し・ぃ〜)
体が本調子ならこの胸に短剣を突き刺してやりたいぐらいムカつく。
大人しくなったカリーだったが身体は強張ったままだ。
そんなカリーの様子にスランはクスクス笑い、カリーの身体を擦り続けた。