風船、風鈴、蝉時雨-1
こんな風に別れるなら…。
最初っから出会わなければ良かった。
こんな、永遠の別れが来るのなら。
「あれ、孝宏、もう学校来て大丈夫なの?」
「あぁ、今は快調期」
「そっか、よかったね!暫くはいっぱい遊べるね!!」
「…そーだな」
時々、鈴音の顔を見ると泣きそうになる。
いつかコイツと別れる時が来ると思うと…。
最期の日まで俺達の関係が続いていれば、の話だが。
「鈴音」
「んん?」
「ガッコ終わったらさ、どっか行こ」
「うへっ、マジ!?わーいデェトだぁ!!」
生まれつき心臓が弱くて。
子供の頃から、激しい運動や高い所が駄目で。
男としてどーかと思うけど。
「あ、でも歩き回って大丈夫?」
「大丈夫だろ」
医者には、高校卒業までは生きられないと宣言され。
発作が起きる度に入院。
風邪をひいても入院。
「ここんトコはずっと調子いいし」
「え、じゃあなんで学校来なかったの?」
「自宅療養と偽り只のサボリ?」
「うわ、ずっるー!」
次に発作が起きたら、俺はもう終わりだ。
次に病院に入ったらもう家には戻れない。
だから、今のうちに鈴音に出来る事をしてやろうと思った。
「なぁ、なんか欲しいモンとかないの?もう欲しくて欲しくてしょーがない!ってヤツ」
放課後になり、街の中をブラブラと歩きながら鈴音に尋ねる。
「えー?なんだろ、愛?」
「あー…そーゆーのは夜ね」
「キャー孝宏くんのエッチ!」
うるせぇ。
「いや、真面目にね?答えてくださいよ」
「…んー…あ、そうだ、ペアリング!こないだ退院したら買ってくれるって言ったじゃん!」
言ったっけか。
覚えのない言葉を催促され、少々焦る俺。
近くにシルバーアクセの店があるから、と鈴音に腕を引っ張られながら、その店の元へ走った。
「ね?かわいっしょ〜」
なんでも、俺に指輪を買って貰う為にいろんな店を調査したと言う。
「で?どんなん?」
「そーだねー。そこが問題」
「俺あんま飾りついてんの好きくない」
流し目で指輪ゾーンをぐるっと見回したが、俺の好みな感じの物は無かった。
「孝宏、コレコレ」
鈴音が店の人間に硝子ケースの中から出して貰っている指輪は、それこそ飾り気が無く、輪の部分がばっつりと切り落とされたようなよく見るタイプのシルバーリングだった。
「これ、いーね!」
「あぁ、そうね…」
値段も手頃で、何より鈴音の無理矢理な促しに敗北した俺はそれをペアで買うハメになった。
「いーね。孝宏も似合ってるよ」
「そらどーも」
「うわ、嬉しくないの?」
「俺にとっちゃあ大きな買い物だったからネ」
「酷いなあ」
時間はかなり過ぎていて、西側の山の間から降り注ぐ太陽の光が、鈴音の白い肌をオレンジ色に染めていた。