最低のオトコ-8
『……あっ……あぁっ!……ダメ……ねぇ……あっ……あぁっ!』
時折聞こえる『ダメ』という言葉が、信じられないくらい強烈に下半身を刺激する。
嫌がる祐希を無理矢理ねじ伏せようとするような、連続的なスパンキング音。
そのリズムから二人の結合の深さまで生々しく想像してしまう。
アイツはどんな体位で祐希を犯しているのだろう。
前からか?それともバックで?
『あっ……あぁんっ……!そんなっ……そんなのダメっ……あっ………あぁ……いやぁっ……!』
アイツは……祐希は……今どんな顔でそいつに抱かれてんだよ。
ついさっきまでは考えもしなかったのに、祐希の姿を思い浮かべるだけで胸が苦しい。
単純な性欲だけではない感情に、俺自身が激しく動揺していた。
なんだコレ?
この鬱陶しい感覚はなんなんだよ。
だって俺は……アイツのことなんて、そんな知らねーし。
そりゃあ毎晩、あの後ろ姿を思い出しながら一人で……その……やってたし、あの女のことがすげぇ気にはなってたけど……それがアイツだっていうのは、知らなかった訳だし……。
でも……でも……結果的に……あれはアイツだった訳で……。
じゃあ俺は……その……つまり……。
『も……ダメぇっ……イっちゃうぅ……あぁっ!あぁっ!あぁっ!ああああぁっ!』
うーっ……やべぇっ……やっ……!
様々な思いで頭の中がぐじゃぐじゃになったところで、俺は果てた。
慌てて引っ張り出したティッシュの中にドクドクと放出される精液。
溜まっていた物を一気に放出する快感と、胸の奥がジーンとなるようなショックが、同時に俺を満たしていった。
―――――――――――――――
ガチャリ、と隣りの部屋のドアノブが回る音で俺は目覚めた。
部屋の蛍光灯はこうこうと点いたままだったが、辺りはシンと静まりかえっている。
時計の針は夜中の2時20分をさしていた。
一瞬深い眠りに落ちただけで、それほど時間はたっていないらしい。
カン、カン、カン、とアパートの外階段
を降りる革靴の足音。
男が―――帰る―――のか。
眠くてまだ働かない思考回路。
それでもその違和感ははっきりと感じられた。
今日は土曜日で、アイツの会社は休みのはずだ。
にも関わらず、男が初めて抱いた女をこんな時間に置き去りにして帰る理由は容易に想像出来る。
あの男……結婚してんじゃねーか……。
「……よりによって……んな最低の男……。バカじゃねーの……」
俺はわざわざ声に出してそう呟くと、ヨレヨレのシーツを頭の上に引っ張り上げて、再びギュッと目をつむった。
誰に対してかわからなかったが、無性にイライラしてどうしようもなかった。
END