最低のオトコ-6
男がベッドに乗ったな――と思った。
シャワーすら浴びないまま、あいつは祐希をいきなり犯すつもりなのだ。
シャワーを浴びて酔いが覚めてしまったら、女が冷静さを取り戻してしまうかもしれない―――｢営業活動｣の経験上、男の心理は嫌というほどよくわかる。
祐希は―――お前はそれでほんとにいいのかよ？こうなっちゃダメだって思ってたから、抵抗してたんじゃないのか？
一瞬、隣の部屋に飛び込んで情事を阻止してやろうかという思いが頭をもたげた。
しかしどうしても身体がうごかない。
さっき祐希が男を下の名前で呼んだことが、心のどこかにひっかかっていた。
祐希はあいつのことが好きなんじゃないのか…。
まるで劣等感にも似た奇妙な感情が、俺をためらわせている。
そして何より―――俺の中でこの先の更なる展開を期待する気持ちが、少しずつ膨らみ始めていたのだ。
『……あっ……っ……ダメ……』
今度ははっきり祐希の声が聞こえた。
俺は我慢が出来なくなり、スゥエットの上から堅くなった自分のモノをさすり上げた。
ムカついているはずなのに、もっと祐希の声が聞きたくて、更に強く壁に耳を押し付ける。
『……ダメじゃないだろ』
男の呻くような声に続いて、ゴソゴソと二人がもつれあうような音が聞こえてきた。
『……あっ……やっ……んっ……んんっ……』
普段からは想像もつかないような、いやらしく可愛らしい声を上げて、祐希が喘ぎ始める。
俺はキーホルダーが引っ掛かっていたあの男の骨ばった長い指を思い浮かべた。
あの爬虫類のような男が、今まさに祐希の身体に覆い被さって、全身を撫で回している。
そう思うと、俺の下半身ははち切れんばかりに膨張してきた。
シャツの下に潜り込んだ男の手が色白の乳房を這いずり回り、その先端に息づく褐色の乳首をきゅっとつまみ上げれば、その敏感な部分はまるで果実が熟れるようにむくむくと膨らんで硬さをましてゆく。
たくしあげられたスカートの奥にさしこまれた卑猥な指は、容赦なく下着をむしりとって、ぬるついた草むらの中へと侵入して―――。
｢……っ……うぅっ……｣
そこまで想像した時、粘りのある先走り液がとぷりとトランクスに滲み出てしまったのが自分でもわかった。
『あっ……んっ……もう……こ……これ以上は……ダメ……っ……』
間髪入れずに俺を煽る祐希の声。
｢これ以上｣って……｢これ以上｣って、どれ以上なんだよっ―――今、アイツに何されてんだ―――。
見えないぶん妄想が逞しく働いて、頭の中にはとんでもないいやらしい光景が次々と浮かんでくる。
俺はスゥェットパンツを下着ごと引きずり下げて、はち切れんばかりに硬くなった己のモノを取り出した。
『…………』
『……あっ……あぁっ……』
男が何か言う度に、その言葉に反応するように祐希がか細い鳴き声をあげる。
一枚一枚いたぶるように脱がされているのだろうか。
それとも、スーツ姿のままストッキングと下着だけ下ろされて……。
俺はギュッと目をつむったまま、熱い欲棒を夢中でしごき始めた。
『あっ！……ダメぇっ……』
ダメって何がだよ……。
んな隙だらけだから、そんな奴につけこまれんじゃん……。
『ん……あぁっ……イヤぁっ……』
イヤじゃねぇだろ……ホントはそんなふうにされたかったんだろ？……。
疼いて疼いてどうしようもないこのスケベな身体を………こうして無理矢理犯して欲しかったんじゃねぇのかよ……っ。
壁越しに聞こえてくる言葉を聞きながら俺は、テラシマのユニフォームを着たまま、薄暗いオフィスで無理矢理祐希を犯す自分を想像しようとした。
壁に祐希の身体を押し付け、脚を持ち上げながらその股間をまさぐる妄想に、異様なほど胸が高まる。
しかし、それは隣から聞こえてくるリアルなセックスの声にたちまち掻き消されてしまった。