愛欲の罠-1
日曜日の朝。
全身にたっぷりと塗り込んで寝たボディークリームの甘い香りが、シーツの内側に漂っている。
腕をそっと上げ、窓辺から差し込む陽光にかざす。
その肌は艶やかな輝きを放ち、吸い付くように滑らかだ。
髪にもとっておきのヘアパックを施し、爪はマニキュアなど必要ないほどに磨き上げてある。
体を起こし、鏡の前で背伸びをした。
背骨が嫌な音をたてて軋む。
ここ数日悩まされていた頭痛は、嘘のように消え失せていた。
自由への予感は、体調までも左右するのかもしれない。
無意識に笑みがこぼれる。
顔を丁寧に洗い、もちろんオーラルケアも怠らない。
肌の美しさを隠してしまわない程度にファンデーションをはたき、唇には少しいつもよりも赤みの強いリップグロスをたっぷりとのせる。
さらさらと流れる前髪が、マヤの動きにあわせて影を落とす。
服装は派手なものを避け、白いニットのアンサンブルと濃いグレーのスカートを選んだ。
ニットの胸元は、マヤの豊かな乳房のふくらみで形よく盛り上がる。
スカートのふんわりとしたシルエットが、黒いストッキングに包まれた細い足をさらに美しく見せていた。
首もとには小粒のダイヤがついただけのネックレス。
プラチナの華奢なチェーンが、室内の光を受けて煌めきを添える。
大丈夫よ。
きっと、うまくやれるわ。
失敗できない。
投げ込まれていた手紙。
部長の無茶な要求。
もう残された時間は少ないはず。
鏡の中の自分に微笑むと、体の奥底からうねりを伴った闘争心が湧いてくる。
最後に香水を手首に擦り合わせ、1件だけメールを送信してから、マヤは待ち合わせ場所へと向かった。