〈猛る瞳と擬態する者達〉-9
『クックック……なあ、そこから振り向いて見てみろ?港が一望出来っからよぉ』
麻里子はゆっくりと振り向くと、そこにはいつもと変わらぬ港の風景が広がるばかり……パトライトの赤い光りも、けたたましいサイレンの音すら無い……。
「……う…嘘……」
眼下に見える事務所の傍から、八代の車も自分の車も消え失せ、その周りには普段と変わらぬ数人の作業員の姿が見えた。
「絶対に一人で行動するな」
その自ら吐いた言い付けを、唯一守らなかったのが自分だったとは……麻里子は八代と二人で捜査していたのではなく、最初から〈一人〉だったのだ……海風が麻里子の髪を靡かせて通り過ぎていく……その風に乗れたなら脱出も可能だろうが、そんなファンタジーは存在しない……。
『おっと、動くなよ?この距離なら外さねえからよ』
「は、離せッ!!八代さぁん!!」
専務は少し離れたところから拳銃を構え、部下達は文乃にしたように手枷を嵌めた。
急転直下の出来事に、未だ麻里子は信じられずに八代を呼ぶが、その声は鴎島達の笑い声にも似た鳴き声に掻き消された。
『あの部屋まで連れていってやれ。あ、そうそう、階段に気をつけてな』
「八代さぁん!!早く来てよぉッ!!……離…せぇ!!!」
数人掛かりで抱え上げられ、麻里子はあの部屋に運び込まれた。
昨日まで乱雑に物が置かれていた室内は、綺麗に片付けられていた。
そして、昨日まで無かった小さな檻が数個だけ並べられ、その中には紺色の同じブレザーを着た少女が二人収められていた。
『お〜い、このお姉ちゃんは刑事さんなんだぞ?』
『さてさて、君達を助けてくれるのかなぁ?』
「こ、こんな子供まで掠うなんてッ!!け…獣がぁ!!」
部下達は麻里子の手枷に麻縄を結ぶと、開け放たれた檻の中に通し、その中に引きずり込むように縄を引っ張った。
麻里子は、そうはさせじと身体を捩って足掻くが、頭や肩を押さえ付けられて床に倒れ、脚をバタバタとさせながら上半身を檻へと入れられてしまった。
『弱えなあ、助ける気あんのかぁ?』
「こ…殺してやるッ!!……纏めてブッ殺してやるぅ!!!」
『おや?正義のヒロインがそんな口利いて……子供が見てんだぞ?』
文乃のように膝に麻縄が巻かれ、尻を突き出したままで檻に拘束されてしまった。
股を開いて這いつくばる様は、航海の間、性欲処理の便器にされた文乃と酷似していた。
必死に足掻いたせいでスカートは捲り上がり、早くも白いパンティーが丸見えになってしまっている。
ただの一度も実力を発揮せぬまま、麻里子は囚われの身となってしまった。