〈猛る瞳と擬態する者達〉-5
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次の日。
あの貨物船は港へと入り、専務以下鬼畜達も無事に航海を終えた。
積み荷を降ろす作業を部下達に伝えたあと、専務は事務所へと戻った。
至って普通な小さな事務所で、数台のデスクにパソコン。そして書類棚が壁に張り付いている。
『よう。なんか変わった事とかあったか?』
専務は数人の事務員の中から、あのうだつの上がらなそうな男に声を掛け、馴れ馴れしく肩に手をやった。
『昨日、あの二人を捜しに刑事が来ましたよ。その女がまたイイ女でして……』
男はパソコンの隣に設置されているレコーダーを操作し、モニターを昨日に撮られた防犯カメラの映像に切り替えた。
『……ほう?確かにこりゃあイイ女だ……』
そこには二人の写真を手にして、偉そうに振る舞う麻里子の姿が映っていた。
海風に乱れる髪を掻き上げて軽く睨む顔は、異性を見下す身の程知らずな傲慢な女にも見える。
『この生意気な顔……コイツが美津紀の姉か?目つきがそっくりだな』
サロトに凌辱されている最中に、確かに美津紀は姉に助けを呼び、名前まで叫んでいた……あおい姉妹も美人揃いだったが、美津紀姉妹も間違いない……専務の中で禍禍しい炎が燻り始めたその時、事務所のドアがノックされた。
『誰ですか?』
作り笑顔でドアを開けた専務の瞳に映ったのは、今の今までモニターで見ていた刑事・麻里子だった。
グレーのスーツを纏い、顎を上げた偉そうな顔で、警察手帳を突き付けてきた。その隣には厳つい顔をした男の刑事もいた。
八代である。
「昨日はどうも。さっき貨物船が見えたから来てみました。あの船、中を調べさせて貰います」
八代は高圧的な態度でそう告げると、鉄柵を開けて貰って貨物船へと歩いていった。
専務は怠そうに二人の後に付き、一緒に貨物船へと上っていった。