和解-3
教室をあちこち見回すと、二、三人ほど集まりおしゃべりをしている女の子のグループがちらほら散らばってたり、まばらにしかいない男子はほとんど机に突っ伏して眠っていたりで、とても静かで平和な風景は自分の教室とほとんど変わらなかった。
「江里子のクラスもうちのクラスとあまり変わらないね〜。うるさい男子は体育館で遊んでるんでしょ? 静かでいいよね」
私と同じで、土橋修らのような目立つグループが苦手な江里子は、
「ああ、まあ……ね」
と、どことなく歯切れの悪い返事をした。
しかし、そんな江里子の様子に気付かず私は、
「なんでああいう騒がしい人達って休み時間のたびに廊下に陣取って道塞いで遊んでるんだろ。体育館とか広い所で騒いでればいいのにね」
と、土橋修らのことを思い出しては、一人で勝手に腹を立てて遠まわしに奴らの悪口を江里子にぶちまけた。
江里子やその友達も苦笑いを浮かべるだけで同調してくれなかったのが不思議だった。
いつもの江里子なら必ず同調してくれるのに。
その時だった。
「つーか、今一番騒がしいのはお前だろうが」
背後から聞こえて来た、やけにドスのきいた低い声。
聞き覚えのある、だけど聞きたくない声を聞いてしまった私は、ゆっくり後ろを振り返ると、
「ひっ……!」
と、小さく悲鳴をあげた。
そこには、眠そうな顔で机からゆっくり体を起こしてこちらを睨むように見ていた土橋修がいた。
江里子の座っている席の斜め後ろで寝ていた男子が土橋修とは思わなかったから、結構大きな声で話していた。
この距離だからおそらくさっきの嫌みは全て聞かれていただろう。
だから江里子もはっきり私に賛同できずに言葉を濁していたのだ。
江里子たちはすっかり黙り込んで俯いてしまっている。
気まずさと土橋修からの殺気を感じ取った私は、
「……じゃ、じゃあ英語の辞書、借りてくね」
とだけ言い残して、辞書を抱えると逃げるように教室を出た。