和解-2
沙織とのギクシャクは払拭できても、まだ問題は残っている。
自分でも、この先ずっと土橋修達と顔を合わさずに過ごせるわけにはいかないと言うのは頭ではわかっていた。
だから、もし顔を合わせたときのパターンを想定し、どんな態度でやり過ごそうか、というシミュレーションを昨夜から頭の中で何度も考えていたのだ。
でも、いざ本人を目の前にすると、頭の中は真っ白になってしまって、そんなシミュレーションなんて何の役にも立たないことを思い知らされるのだ。
身を縮こませて、下を向くしかできない私に、相変わらず無愛想な顔をしていた土橋修はゆっくり口を開いた。
◇ ◇ ◇
―――事の発端は、数分前の昼休み。
私と沙織はお弁当を食べ終えて、のんびり次の授業の準備をしていた。
「あ、辞書忘れた……」
私がそれに気付いたのはカバンの中やロッカーを隅々まで探して、それでも見つからなかった時だった。
「え〜、平川先生だよ!」
沙織が慌てて言った。
沙織が慌てたとおり、英語の平川先生とは学校で1、2を争うほど怖い中年の男性で、忘れ物や予習を怠ると容赦なく頭を叩かれ、挙げ句授業が終わるまでずっと立たされたままなのだ。
血の気が引いた私は、
「急いで借りてくる!」
と尻に火がついたように教室を飛び出した。
昼休みになると、土橋修グループは体育館でバスケをしたり校庭でサッカーをしていることが多いのを知っていたから、私は堂々と廊下に出られた。
案の定土橋修グループの姿はどこにもなく、閑散とした廊下は昼下がりの穏やかな日差しが窓から降り注いでいた。
私は安堵のため息をもらしてから、一年生のときに同じクラスで仲のよかった友達の所へ向かった。
「江里子ー、英語の辞書貸して〜!」
私はA組の教室にズカズカ入り、窓際の一番前の席で友達とおしゃべりしている江里子の姿を見つけると、大きく手を振りながらそばに駆け寄った。
江里子は私の姿を見るとヒラヒラと手を振り返し、優しそうな笑顔を見せた。
「どうしたの? 桃子が忘れ物なんて珍しいね」
江里子はクスクス笑いながら、机の横にかけていたカバンから辞書を取り出し、眼鏡をかけたおとなしそうな顔をゆっくりこちらに向けた。
「うん、ちょっとうっかりしててさ」
私は、自分のクラスとは違う雰囲気がもの珍しくてキョロキョロ教室内を見渡しながら言った。