〈過去を漁る黒鉄の檻〉-5
『クックック……飛んで火に入る夏の虫か?これまた美人さんな虫が二匹も……』
「……なんですって?」
文乃は身を屈めて突進すると、男の腕を掴んで捻り、そのまま床へ投げ飛ばした。
『ぅお!?て、テメェ!!』
たかが女と見くびっていた男は、いとも簡単に投げ飛ばされた事に完全に狼狽え、訳も分からず手足を振り回して足掻いた。
[逮捕術]
犯人を逮捕する為の体術であり、柔道の他に柔術、空手、合気道を混合して作り上げた格闘術である。
警棒を用いた剣術は、剣道をベースとしたものだが、例え警棒を失ったとしても、現場に落ちている棒状の物であれば、何でも武器として使用できる汎用性も兼ね備えている。
基本的には関節技で相手を組み伏せるものだが、もしも相手が激しく抵抗した場合、突きや蹴りによる攻撃も用いる。
「抵抗しても無駄よ!貴方なんて目じゃないから」
『この…ッ!!クソアマァ!!!』
「全員逮捕よ!大人しくしなさい!!」
船内の騒ぎを聞き付け、次々と男達が扉の陰から現れ、文乃と美津紀に襲い掛かっていく。
文乃に負けじと美津紀も逮捕術には磨きをかけていたので、女と甘く見た男達には歯が立たない……床に投げ飛ばされ、情けない姿を晒した。
『が、頑張って!!…後ろ!!危ないぃ!!』
『お願い助けて!!助けて下さい!!』
檻の中の少女達は、颯爽と現れた二人の救世主に声援を送り、有らん限りの声で叫んだ。
多勢に無勢……それでも二人は強く、男達を手玉に取るように床に這いつくばらせていく……もう二人の勝利と、少女達の解放は目前……警視総監の高笑いが聞こえてきそうだ……。
『オラァ!!こっち見ろぉ!!』
(!!!!)
あの爬虫類のような瞳をした男が、いつの間にか取り出したナイフを一人の少女の尻に向け、喚き散らしている……あの表情を見れば、何を仕出かしてもおかしくはない……二人に戦慄が走った……。
『こ…このアマ……へへ……ナイフでこのガキのオマ〇コ切り刻んでやろうか?……大人しくしろぉ!!』
「〜〜ッ!!!」
尻にナイフの冷たさを感じている少女は、あまりの恐怖に顔が強張り、他の少女達は救世主が捕えられてしまった現実に、うちひしがれていた……あと一人、二人、味方がいたなら、文乃と美津紀は男達を制圧出来たはず……卑劣なナイフ一つに、二人の“正義”は沈黙した……。