〈過去を漁る黒鉄の檻〉-4
「……ここに……ここに夏帆の匂いがするの……」
謎が解けたと言った割に、その内容は単に感覚的なものだった事に文乃は呆れたが、以前にも直感だけで事件を解決した事もある美津紀だけに、黙って後をついていった。
従姉妹にしか分からない何かが、美津紀を引き寄せているのか……目の前に聳える貨物船のタラップを迷う事無く上り、スカートを海風にパタパタとはためかせながら、ついに甲板にまで辿り着いた。
『お二人さん。礼状も無しに困りますねぇ。手帳一つでここまでするとは、世間知らずもいいトコですよ』
貨物船の後部に聳えるブリッジ。その横の船内入口の扉から、一人の男が姿を現した。
年齢は40代くらいだろうか?
金髪をオールバックに固め、まるで感情が読み取れない爬虫類のような冷たい眼差しで、二人をジッと見ている。
文乃は刑事の直感で、この男に得体の知れぬ“気配”を感じていた。
「最近、10代の少女が失踪してるんです。船の中を調べさせてもらうわ」
文乃は男を押し退けて扉をくぐり、美津紀も後を追う。
男は少しだけ口元に笑みを湛えると、鉄製の階段を下りていく二人をジッと見つめていた……。
(なにかしら、この雰囲気?絶対に怪しいわ……)
明るい日差しを浴びていた瞳孔が、薄暗い船内になかなか同調しない……。
文乃も美津紀も、全身の神経を研ぎ澄まして歩みを進め、階段を下り終えた先に伸びた短い通路の、その先に見える扉を目指した。
「………」
二人の沈黙……それほど蒸し暑くもないのに、汗腺から汗が滲み、Yシャツが肌に纏わり付く……文乃はドアノブを握り、ゆっくりとドアを開けた……。
「!!!!」
二人の目の前に広がる光景は、想像を超えた衝撃となって頭を打ち付けた……小さな檻が並列に並べられ、その中には少女達が俯せの姿勢で収められていた……少女達の失踪事件の犯人は、あまりにも呆気なく二人の前に姿を現した。
『……よく分かったなあ、お二人さん』
(!!!!)
振り返ると、そこにはさっきの男が笑いながら立っており、勝ち誇ったような不遜な態度で扉に寄り掛かっていた。
それは完全に二人を舐めて掛かっている態度……犯罪を知られてしまった事への狼狽えなど微塵もなかった。