第三章 肛虐の宴-1
夏の余韻が少しずつ消えていく中、美優は黒を基調としたベーシックなワンピース姿でひっそりと裏通りを歩いていた。
髪を揺らしてくる秋風が、肌に心地よさを与えてくる。
ときおり立ち止まっては大通りのほうを振り返り、憂いた眼をグッと細める美優。
大村の店へ足を運んだ回数は、この日を含めて五回を数えた。
もちろん肉体関係も五回結んだことになる。
この狭くて頼りない路地裏は、すっかり淫魔の陵辱口となっていた。
実体験ではありえなかった変質的な性行為の数々。
大村の性行為は何もかもが汚らしくて気持ちが悪かった。
それゆえ、初めて知り得た感情や、悔しくも新しく覚えてしまった愉悦も沢山あった。
身体を重ねるたびに感度を高めていく肉体―――。
(今日は……何をされるのかしら……)
不安と恐怖の間に入り込んでくる厭らしい期待―――そんな不埒な欲が沸くたびに、美優は激しく頭を振った。
カチャ―――
いつものように呼び鈴を鳴らし、大村の声を待ってから店の中へ入った。
何度来てもこの空間の嫌な空気には馴染めそうにない。
カビ臭いような独特の匂いを鼻腔がとらえ、美しい眉の根がグッと深いシワを刻む。
美優は、怪訝な表情を浮かべながらも慣れた感じで奥の部屋へと進んだ。
「やあやあ奥さん、今日も実にお美しい。そのワンピース、とっても似合っていますよ」
大村が、黒ぶちのメガネをずらしながら早速ニヤついた眼を向けてきた。
あいかわらずヨレヨレのシャツに色あせたスラックス姿で、いつ見ても不潔っぽさが抜けない容姿だ。
「大村さん、写真とネガはあと何枚残っているんでしょうか?」
美優が、冴えない声で聞いた。
「ああ、あれね。えっと、たぶん十枚くらいじゃなかったかな?」
軽く言い放つ大村に、美優は軽い眩暈を感じた。
まだあと十回もこんなところに通わなければならないなんて……考えるだけで気が遠くなる。
その反面、肉体のほうはどうだろう。
十回通う。すなわち、あと十回はこってり陵辱されるという事だ。
これまでの悲惨な痴態を思い返し、憂鬱さとは裏腹に秘芯のほうは惨めにもジンと微かに疼いてしまった。