ロスト・バージン!?-1
非日常的な空間があたしと臼井陽介を包んでいた。
周囲の刺さるような視線があたし達に向けられているのも気付いている。
でも、あたしは泣くのを止められなかったし、コイツもあたしを突き放す真似をしなかった。
「……何で泣いてんだよ」
臼井陽介がそっとあたしの髪を撫でる。
ちょうどあたしの嗚咽が治まりかけてきた頃に理由を訊ねてくる間の取り方の上手さが奴らしかった。
その一方で、彼の胸に顔を埋めていたことで響いてくる鼓動が、思いの外速いリズムを刻んでいたことが、「コイツも人の子だったんだ」とあたしに気付かせた。
その落ち着かない鼓動を耳にあてながらあたしは口を開く。
「……あたしね、浮気されてたんだ」
言葉にすると、辛くて、悔しくて、また涙がじわりと滲んできた。
あたしの頭の上でハッと息を呑む音が聞こえてきた。
それと同時に、あたしの髪を撫でる彼の手がピタリと止まる。
「…………」
「臼井くんの言った通りだった。
ままごとみたいな恋愛に満足できなかったから、優真先輩は他に女の人作ってたの」
「…………」
「処女だからって、それを言い訳にして優真先輩と向き合って来なかったから、浮気なんてされちゃうんだよね。
アレ見られて嫌われちゃうとかそんな下らないことで悩んで、ホンットあたしってバカ」
治まりかけてきた嗚咽も再び復活してしまい、あたしは泣き顔を見られたくなくて、彼のライダースジャケットをギュッと掴んだ。
煙草の匂いと革の匂いが混ざりあったそれが、少しだけあたしの心を和らげてくれた。
「もうわかったから……、無理して喋んなよ……」
心なしか、彼の声も震えているようだ。
「結局、優真先輩にとっては処女なんて物珍しいから付き合ってただけで、実際は、いつまでも勿体ぶって身体を許さない堅物よりも、繋がってられる女の子の方が魅力的だったんだ」
「それ以上言うなって……!」
少し怒ったような声に、怯んでしまいそうになるけど、堰を切った言葉はもう食い止められない。
「あたしみたいに堅物な処女なんて、結局融通の利かない扱いづらい女なのよ!!
エッチさせないことで浮気されるくらいなら、さっさと処女なんて捨ててしまえばよかった!!」
すっかり取り乱して喚くあたしを、彼は眉間をしかめながら見つめていた。