ロスト・バージン!?-3
この時期の夕方はすっかり暗くなっているけど、ネオンや街灯、ひっきりなしに行き交う車のヘッドライトの眩しさと、帰宅ラッシュでごった返す歩道は、昼間よりも活気づいているように見えた。
そんな人混みを上手にかき分けながら、彼はグングン進んでいく。
自分のペースで歩きたかったけど、掴まれた右手は石のように固まって離れなかったから、あたしは小走りで彼について行くしかなかった。
臼井陽介は無言のままどんどん進んでいく。
握られた手がやけに汗ばんでいるのに気付きつつ、あたし達は駅の方へと向かった。
通学でいつも使う駅までやって来たあたしは、空いている方の手でバッグから財布をゴソゴソ探し出す。
でも、電車に乗ると思っていたあたしの予想とは裏腹に、臼井陽介は駅を通りすぎてさらに歩みを進めて行った。
駅の反対側は居酒屋とか、カラオケとか、夜になって賑わいを見せる繁華街だ。
夜の顔を見せ始めたギラギラしたネオンの光、下水道の臭いが立ち上る不快な空気に顔をしかめつつ、あたしは臼井陽介の背中に問いかけた。
「ど、どこに行くの!?」
あたしの言葉が耳に入っていないのか、彼はそのまま進んでいく。
でも、さらに力を込めて握られた手が「黙ってついてこい」と言ってるような気がして、あたしは結局それっきり何も言えなくなった。
繁華街も突き抜けて閑散とした狭い路地に出ると、目に飛び込んで来るのはピンクの怪しい建物達。
どこかこそこそしているカップルが数組歩いていることで、あたしはここがラブホ街であることに気付いた。
途端に身体が強張り始める。
自分から言い出したこととは言え、臼井陽介が本気であたしとセックスをするつもりなんだと思うと、膝がガクガク震え出した。
臼井陽介は、ラブホ街の一番手前にある西洋のお城を模した建物をチラリと見上げると、繋いだ手を離してあたしの肩を抱き始めた。
ビクッと肩を竦めたあたしは、一瞬躊躇ってしまってその足を止めてしまうけど、それでも奴はお構い無しで、まるで犯罪者を連行する警察官みたいにあたしをその建物の中へと引きずっていった。
初めて足を踏み入れたそこは、ピンクや紫の薄暗い電灯が頼りなさげに辺りを照らしていて、甘ったるい香りがきつい暖房に撒き散らされてあたしの鼻をくすぐった。