望み-5
「ほれ」
後ろ向きにしゃがんだゼインがおぶさるようにポロに促す。
ポロは意を決してゼインにおぶさり、しっかりとしがみついた。
「3ば〜ん、ゼインとポロ行きま〜す!」
ゼインは助走をつけて走り出す。
ブワッ
体が宙に投げ出される感覚に、ポロはギュッと目を閉じた。
(落ちても痛くありませんようにっ)
恐怖のあまりポロは信じてもいない神様に祈る。
ダンッ
しかし、それは一瞬の事で、気づいたら向こう側に着いていた。
「な?大丈夫っつったろ?」
ぽんぽんと腕を叩かれたポロは、脱力してズルズルとゼインから滑り落ちる。
「ありゃりゃ」
そんなポロを見たゼインとカリーは顔を見合せて苦笑するのだった。
その曲芸のような谷越えを隠れて見ていた男がいた。
男は少し離れた木の上で、腕を組んだまま目を丸くして固まっている。
「おいおい」
雇い主に18番……ポロの居場所を把握しておいてくれと言われ、やっとこさ見つけたのに常人には無理な谷越えをやられて、男……スランは空を仰いでため息をついた。
ゼインのような人間離れした事なんて勿論出来ないし、カリーみたいな綱渡りも綱が無いから出来ない。
スランに出来る事は迂回だけ……また、3人を見失う事になり彼は舌打ちした。
雇い主がどれだけの間彼らを泳がすつもりか分からない以上、出来るだけ急ぎたいのだが……。
スランは空に向かって指笛を吹く。
ピイィーーーーッ
澄んだ指笛を聞きつけて一羽の鷹が舞い降りてきた。
鷹を腕に止まらせたスランは鷹の脚に付いている筒にメモ紙を入れる。
メモ紙には2つ前に彼らが立ち寄った街の名前が書いてある。
嘘ではないから契約違反にはならない……ちょっと遅れて報告してるだけ。
スランは腕を少し動かして鷹を飛びたたせ、木から跳び降りて迂回路へと足を向けた。
目的地の街は普通の地図にはのっていないような小さな街。
迂回路側に街の入り口があり、直線コース側は……。
「どわわわわわっ」
バキバキッベキャッ
……街の裏にある切り立った崖に出る。
そこをゼインは足を滑らせて落ちたのだ。
「かっこ悪ぅ」
カリーは細いワイヤーを木に引っ掛けて悠々と降りてくる。