望み-10
「でも、あれだけのワクチンを抱えてあの谷を越えて来てくれたのはあなた方で……」
「うっせぇ!俺は金貰ったら何でもすんの!」
フローの言葉を遮ってゼインは怒鳴った。
「はいは〜い。照れてるだけだから気にしないでねん♪街は救われた!いいじゃん?皆でお祝いしよっ!」
そこにカリーが割り込んで酒瓶を掲げると、おおーっと歓声があがり後は一気にお祭り騒ぎとなるのだった。
カリーを中心にどんちゃん騒ぎが起こっている店の片隅で、ゼインはフローと話していた。
「魔法使い?」
「ああ、ここらへんにゃ居ねぇか?」
ゼインはオレンジジュースを飲みながらフローに聞く。
実は酒など1滴も飲めないゼイン……飲んだら速攻で寝てしまうぐらい弱いのだ。
「南の大陸には元々少ないからねえ」
フローの方は強めの酒をロックで飲んでいる。
医者のくせに良いのか、と突っ込みたくなるようなハイペースだ。
「……それならファンに渡ったらどうかしら?」
少し考えたフローはグラスの中の氷をカランと鳴らして答える。
ゼインの横で彼と同じようにジュースを飲んでいたポロは、聞きなれない言葉に顔を上げてフローを見た。
「ファン?」
東西南北の大陸の中心に位置する島国ファンは、各大陸を繋ぐ重要な国。
どの大陸からも船で最短1日の場所にあって、交易の中心となり小さくとも栄えている国だ。
という事をポロに説明したゼインは改めてフローに顔を向ける。
「ファンだってそんなに居ねぇだろ?」
人が集まるので可能性は高いだろうが、わざわざ高い船賃を払って行くべきかどうか……ゼインはいまいち踏み切れない。
「それがね……最近、ファンのお姫様と西の大陸の魔法大国ゼビアの魔導師がトレードされたらしいのよね」
「姫と魔導師が?」
「そう……半年ぐらい前にファンが魔物軍団に襲撃されたの知ってる?」
「ああ……そりゃあな、有名な話だし」
たまたま、ファン国王の弟の結婚式があり各国の王族らが集まっていて、全大陸精鋭部隊対魔物軍団の戦いになった話……それを聞いた時は是非とも参加したかったと悔しい思いをした。
「その時、活躍した魔導師が居てね。ファンの宮廷魔導師にってスカウトされたんだけど、その魔導師はゼビアの宮廷魔導師だったから……」
「それで代わりに姫を渡したってか?」
「そういう事。しかも、魔法使い最高ランクの魔導師2人とトレードよ?姫を手放してもお釣りがくるわよね」
姫なんてのは所詮、政略結婚の道具だ。
かなり良い条件だった、とフローは話す。