ダブルデート-9
「いつもの郁美なら“彼氏と別れた”って、涙一つ流さずあっさり報告してくるけど、あんたのときは今までのパターンと全然違ってたよ。“ムカつくけどやっぱり好きだから、やり直したい”って、ずっと泣いてて……。私、あんなに一人の男に執着している郁美見たのは初めてだったよ」
恐怖なのか怒りなのかわからないけど、涙が出そうになり、必死でそれをこらえながら訴える。
「……あんたがどうこう言おうが、俺はやり直すつもりはねえんだよ」
「じゃあ、なんでヤリ捨てしたの? 郁美は、土橋くんが初めて自分が本気で好きになった人だから身体を許したって言ってたよ。それなのにすぐに郁美のこと振るなんてヒドくない?」
どんどんヒートアップしてきて、涙声でまくしたてる私に、彼は少したじろいでいた。
「修、ホントなの……?」
沙織が不安げな顔で土橋修を見つめる。
「なんだよ、郁美さんかわいそうじゃねえか」
大山倫平もようやく少し震えた声を出した。
二人の戸惑った表情が土橋修をイラつかせたらしく、彼はチッと小さく舌打ちをした。
「……俺、帰るわ」
土橋修はジーンズのお尻のポケットに入れていた財布を取り出し、千円札をバンッとテーブルの上に叩きつけるように置くと素早く立ち上がった。
「おい、修! 帰んなよ!」
大山倫平が慌てて土橋修の腕を掴む。
しかし、土橋修はよほどイラついていたのか、大山倫平の手をバッと振り払い、私達の誰とも目を合わせることなくスタスタと店を出て行った。
膝がガクガクして震えが止まらない。
大山倫平は冷めた視線を私に投げかけてから、大きなため息をついて、
「あ〜あ、すっげえ最悪。沙織ちゃん、どうする?」
と、明らかに私を責めたような言い方で沙織の方を向いた。
沙織はオドオドした表情で私の肩に手を置くだけで何も言えずにいる。
このまま三人で仲良く遊びに行くというような雰囲気ではないと言うのは確実だ。
「沙織、私も帰るから。ごめんね、空気悪くして」
それだけ言うのが精一杯だった。
土橋修の怒った顔や、大山倫平の冷たい視線に耐えられず今はただ家に帰りたかった。
「桃子……」
「ごめん」
私も財布から千円札を取り出し、テーブルの上に置くと、逃げるようにその場を立ち去った。