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恋に変わるとき
【青春 恋愛小説】

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決戦は金曜日-5

下を向いたままエレベーターで一気に1階まで降りて、一目散に正面玄関を目指して走る。


今の今まで欠席したことのなかったゼミを、あたしの都合でサボることに一抹の不安はあったけれど、さっきの出来事を思い出すととても出席なんてできそうにない。


大学生ともなれば、廊下を走るような奇怪な輩はいるわけもなく、バタバタ構内を走るあたしの姿は周囲の人に奇異な視線を投げ掛けられていた。


でもそんな物珍しげな視線も、全然気にならなかった。


あの優真先輩の動揺した顔に比べたら……。


とにかく早く家に帰って一人になって、思いっきり泣きたかった。


正面玄関にたどり着いて、このまま構内から、優真先輩のいるこの建物から脱出できる、そう思った時。


「よう、蜘蛛の巣女」


あたしの背中に投げ掛けられたアルトボイスが鼓膜を刺激した。


その声にピタリと足を止める。


声の主は、スニーカーをキュッと鳴らしながらこちらに近づいて来たようだった。


なんでこのタイミングで現れるのよ……。


臼井陽介の声を聞いた途端、こらえていた涙が再び勝手に溢れてくるもんだから、あたしは顔を上げることができなくて、拳を握りしめたまま俯いていた。


「あれから彼氏に蜘蛛の巣駆除はしてもらったのか?」


こちらの事情なんてまるで知らない臼井陽介は、いつものごとく間延びした口調で話しかけてくる。


「…………」


「意外とヤッちまえば不安なんてどうでもよくなってくるもんだろ?」


「…………」


「これからは彼氏とガンガンやりまくって仲良くやれよ……」


あたしの肩に何気なく手を置いた臼井陽介の動きが止まる。


その時間は、数秒なはずなのになんだかとても長く感じた。


あたしは俯いたまま、視線だけをそっと上げる。


ゴクリと生唾を飲み込む音。眉間に寄ったシワ。


不信感で歪められた端正な顔があたしを見つめた瞬間、あたしはボロボロ涙を床に落としていた。


「……おい、何があったんだ?」


彼はあたしの両肩を掴むと真っ直ぐあたしを見つめてきた。


いつもの茶化した顔ではなく、驚いたような、戸惑ったような顔で。


それを見たあたしは、グッと目を瞑って歯を食いしばる。


そんな心配そうな顔であたしを見ないでよ、ますます惨めになるじゃない……!


いつもなら「アンタには関係ないでしょ!」と、気安く触ってきたその手を振り払ってやるはずなのに。


あたしの肩を掴んだその手の力強さが、あたしをおかしくさせる。


コイツの顔を見た瞬間、涙腺が崩壊してしまったあたしは、そのまま臼井陽介の胸にコツンと頭をくっつけて、しばらく静かに嗚咽を漏らしていた。





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