決戦は金曜日-4
今まであたしに見せてくれた優真先輩の姿は全て偽りだった。
聞きたくもないのに耳に入ってくる会話が、どんどんあたしを惨めにさせてくる。
眼鏡を外すと結構カッコいいってことも紗理奈先輩はとっくに知っていて。
照れ屋で奥手な優真先輩の姿は、男の子と付き合ったことのないあたしを警戒させないための演技で。
あたしと付き合っている間も二人は何度もセックスをしていた。
まるで昨日観たテレビ番組を語るように簡単に、彼はあたしと二人でいるときの様子を面白おかしく紗理奈先輩に話して聞かせていて、ドア一枚挟んだ向こうであたしは止まらない涙をただただ厚手のスカートの上にこぼすしかなかった。
あたしが静かに泣いていた折も折。
「あれ、福原さん、中に入んないの?」
背中にかけられた声に、ビクッと身体が震えた。
この声は、同じゼミの吉川くんだ。
ゆっくり顔を上げれば、ぽっちゃりした彼の体躯と、道をよく訊かれそうな人のよさそうな顔が目に入る。
こんなナリしてるけど、軽音サークルでギターボーカルを務めている吉川くんの声は、普段から声量がある。
そんな大きな声であたしの名前を呼ぶもんだから、それは教室の中にも聞こえてしまったらしく、ガタッと椅子が動く音と共に、「ヤベッ」と言う優真先輩の声があたしの耳に入った。
少しして、教室内に電気が灯る。
ガチャリとドアが開く。
「恵!」
優真先輩があたしの名前を呼んであたしの腕を掴む。
彼があたしに触れた瞬間、とてつもない嫌悪感がほとばしってまた全身に鳥肌が立った。
いつもと同じ、少しボサボサの頭に黒いセルフレームの眼鏡をかけた優真先輩の姿が映る。
でも、もうこの人はあたしの知ってる優真先輩じゃない。
……もうヤダ!!
あたしは、渾身の力を振り絞って優真先輩の手を振りほどいて、その場から逃げ出してしまった。