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氷炎組曲
【ファンタジー 官能小説】

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見えない利点-6


 ***

〔――サーフィ、聞えますか?〕

 魔法石のイヤリングが、隣国からヘルマンの声を運んでくる。

「はい。聞えます」

 一人きりの部屋で、サーフィに笑顔が浮かんだ。

「フフ……不思議ですね。すぐ傍にいるみたいです」
〔ええ。二日後には本当に帰れそうですよ。そちらはどうですか?〕
「はい、生徒たちも元気ですし、昨日は学長の娘さんの誕生パーティーに行ってまいりました」

 目を閉じると、ソファーの隣りにヘルマンが座っているような気さえするが、彼ははるか離れた地にいるのだ。
 だから、頬を赤くしながら、サーフィは続ける。

「毎日とても楽しいですが……貴方が帰ってくるのが待ち遠しいです」

 いつもなら、酔っ払ってしまった時の事を、ほとんど憶えていないのに、あの晩の事はなぜかしっかり記憶に残っていた。
 ヘルマンが急にこの魔法石をくれた理由もわかるが、サーフィは何も憶えていないフリをしている。

 サーフィにとって世界の全てであり、何でも出来てしまう最愛の人は、意外と完璧ではないのだ。
 妙に素直でなく、愛したり愛されたりという分野については、おそらく凡人以下。

 それはサーフィも同じだ。

 それでもこうやって、不器用な愛のダンスを練習していれば、いつか上手なステップを踏めるようになるのだろう。

〔……〕

 魔法石の向こうで、ヘルマンが少し息を飲んで押し黙るのを感じた。
 きっと同じように顔を赤くして、あの怒ったような顔をしているのだろう。

 この魔法石は画期的な発明品だ。
 互いの顔が見えないからこそ、言い合える事だって沢山ある。

〔……もうそろそろ切ります〕

 動揺と迷いをいっぱいに含んだ声。

「ええ」
〔できるだけ早く帰りますよ……僕も………………早く君に会いたいですからね〕




 最後の部分はとても早口で、言い終わるやいなやのうちに、魔法石の通信は終わった。




 終


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