見えない利点-6
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〔――サーフィ、聞えますか?〕
魔法石のイヤリングが、隣国からヘルマンの声を運んでくる。
「はい。聞えます」
一人きりの部屋で、サーフィに笑顔が浮かんだ。
「フフ……不思議ですね。すぐ傍にいるみたいです」
〔ええ。二日後には本当に帰れそうですよ。そちらはどうですか?〕
「はい、生徒たちも元気ですし、昨日は学長の娘さんの誕生パーティーに行ってまいりました」
目を閉じると、ソファーの隣りにヘルマンが座っているような気さえするが、彼ははるか離れた地にいるのだ。
だから、頬を赤くしながら、サーフィは続ける。
「毎日とても楽しいですが……貴方が帰ってくるのが待ち遠しいです」
いつもなら、酔っ払ってしまった時の事を、ほとんど憶えていないのに、あの晩の事はなぜかしっかり記憶に残っていた。
ヘルマンが急にこの魔法石をくれた理由もわかるが、サーフィは何も憶えていないフリをしている。
サーフィにとって世界の全てであり、何でも出来てしまう最愛の人は、意外と完璧ではないのだ。
妙に素直でなく、愛したり愛されたりという分野については、おそらく凡人以下。
それはサーフィも同じだ。
それでもこうやって、不器用な愛のダンスを練習していれば、いつか上手なステップを踏めるようになるのだろう。
〔……〕
魔法石の向こうで、ヘルマンが少し息を飲んで押し黙るのを感じた。
きっと同じように顔を赤くして、あの怒ったような顔をしているのだろう。
この魔法石は画期的な発明品だ。
互いの顔が見えないからこそ、言い合える事だって沢山ある。
〔……もうそろそろ切ります〕
動揺と迷いをいっぱいに含んだ声。
「ええ」
〔できるだけ早く帰りますよ……僕も………………早く君に会いたいですからね〕
最後の部分はとても早口で、言い終わるやいなやのうちに、魔法石の通信は終わった。
終