見えない利点-5
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「は……はぁ……」
サーフィの瞳がトロンと蕩けきったのを確認してから、ようやくヘルマンは両手首の戒めを解いた。
今夜はおやすみだけ言って、さっさと寝室から退出するつもりだった。
ドス黒い嫉妬心を八つ当ってしまう気がしていたから、、頭を冷やそうと思っていたのに……。
「ふぁ……へるまんさまぁ……」
サーフィから、舌足らずな声があがる。
抱きしめると、素直にするりと抱き返された。頬をすりよせ、幸せそうにサーフィが甘えだす。
極端に酒に弱い彼女は、こうなっている間はいつもの慎み深さを忘れ、とても素直に甘えてくる。
ただし酔いが醒めれば、その間の事はすっかり忘れてしまうようだ。
「サーフィ……君を、束縛などしたくないのですが……」
――まったく、僕はなんて臆病な卑怯者だ。
後で彼女の記憶からすっかり消えてしまうからこそ、やっと言える。
「君の中に、他人が入り込むのが悔しい……」
シシリーナにいた頃、サーフィにとってヘルマンは世界の全てだった。
それを不憫に思い、誇りを投げ打ってまで開放したはずなのに、このていたらくだ。
サーフィがバーグレイ商会と旅をしていた一年間も、さまざまな人物に出会っていたはずだ。
だがそれは、ヘルマンの目の前で行われなかったから、なんとかやり過ごせていた。
とんでもなく滑稽で酷い矛盾。
サーフィが広い世界に順応する事を望みながら、一方で自分だけに繋ぎとめておきたい。
ヘルマンだけに向いていた視線が他に向けられるたび、彼女が一歩すつ遠のいていく気がして、狂いそうになる。
「へるまん……さま……?」
酔眼のまま、きょとんとサーフィが首をかしげる。
「あの道具は、もう使いませんよ」
転がっている玉連に視線を走らせ、ヘルマンは苦笑する。
無機質な玩具でサーフィが快楽を得る姿から慣らせば、生きている者とのたわいない交流くらい、そのうち割り切れるかもしれないと思ったのだ。
「僕以外の要素で君が快楽を得るのは、やはり耐えられません」
サーフィが快楽に身悶えすればするほど、心臓が凍りついていきそうだった。
ヘルマンでなければ嫌だと言われた時、あまりにホッとしている自分に気付き、驚いた。
「あ……」
サーフィの両手がするりと移動し、ヘルマンを引き寄せて口づける。
唇の表面を軽く合わせるだけのキスだったが、それはヘルマンにこのうえない幸せをくれた。
「ん……わたしも……ヘルマンさま以外はイヤれす……」
それからサーフィは、子どもがいたずらを白状するように、おずおずと言葉を紡いだ。
「らって……あの、どうぐ……自分の手でする時みたい……」
「自分で?」
意外な告白に、また驚いた。
サーフィくらいの年頃なら、自慰をするのはむしろ普通だと思うが、お堅い彼女からはあまり想像つかなかったからだ。
「ふぅん?いつしていたのか気付きませんでした」
さりげなく誘導してやると、可愛い酔っ払いさんは泣き出しそうになりながら、告白を続ける。
「あ、あの……隊商にいた頃や……へるまんさまが留守でさみしかった時……思い出せるから……でも……あまり、きもちよくないのれす……」
「……留守の時、寂しかったのですか?」
いつでもサーフィはにこやかに見送ってくれたし、帰宅すると、留守の間にあった事を楽しそうに話してくれた。
ヘルマンがいなくても、他の人間と楽しく過ごし平気だったと思っていたのだ。
コクコクとサーフィは頷く。
「らって……すきな人いっぱいできても……わたしのトクベツ、へるまんさま……らけ……」
もう、それだけで十分だった。
夢中で押し倒し、貪るように何度も口づける。
「サーフィ。そんなに煽られたら、止らなくなります」
しどけない姿に、雄としての欲情が煽られる。
そしてそれ以上に、蕩けた炎色の瞳に、心を溶かされる。
サーフィの手をとり、透明な蜜の滲む場所へ触れさせた。
「あっ!?」
「ほら、ここが君の好きな場所でしょう?」
「ひゃぁんっ!!!」
これも忘れてしまうだろうが、あとでもう一度教え込めばいい。
丁寧に指を誘導し、くちゅくちゅ音が立つほどかき混ぜさせる。
「あ、あ、ああああっ!!!」
サーフィが仰け反って達した。
快楽にビクビク震える姿が、愛しくてたまらない。
一人で快楽を貪る時さえも、サーフィはヘルマンが理由なのだ。
まだ荒い息を吐いているサーフィに自身を突き入れる。
「ひぁっ!!あ、あ!!」
引けかかる腰を捕まえ、深くまで押し込んで揺さぶった。
「は……とても気持ち良いですよ」
理屈では単なる肉の交わりにすぎない行為が、眩暈がしそうなほどの陶酔をくれる。
サーフィに溺れ、夢中で求め続ける。
脈打つ内部に精を放ってもまだ足りず、抱きかかえて繋がったまま向かい合わせに座らせた。
「あ……ああぁ……きもちいい……れす……へるまんさまぁ……」
半泣きですがりつきながら、サーフィが腰を揺らめかせる。
泣き濡れた頬に舌を這わせ、そのまま唇を合わせた。
「ふ……う……ぅん……」
おずおず伸ばされた舌が、深い口づけに応え、可愛らしく吸い付いてくる。
夢中になっているのは、彼女も同じだと感じ、さらに煽られた。
抱きしめ、抱き返されて、そのたびに貪り続け、やっと我にかえってサーフィを眠らせた時には、もう夜が明けかかっていた。