摘み食い-5
高級ホテルだけあって、防音は完璧である。街の喧騒も、室内の物音も一切聞こえない。聞こえてくるのは、別のフロアに止まったエレベーターの音くらいである。
実際にどのくらいの利用客が同じフロアにいるのかわからないが、エレベーターの停止音だけは頻繁に聞こえてくる。最上階の展望レストランは昼夜を問わずに利用客の多い、人気のスポットであるということもある。
「ふむ……、もうちょっとアクセントが欲しいわね。ブラウスのボタンを外しましょうか? 三つくらいね」
それは、ちょうど乳房の下辺りまでである。
「ほ、ホントに、やるんですか?」
「ん?」
「……わかりました」
おずおずといった様子で、ミスズは自分のブラウスのボタンを外し始めた。シホには及ばないものの、形の良い乳房の輪郭がブラウスの隙間にあらわれる。
「良いわね、ミスズ。とっても良いわ。ほら、笑顔、笑顔」
「はうう……」
実際、今ミスズが身に着けているのはブラウスのみである。それをさらに途中まで脱いでいるような格好は、全裸でいるよりも遥かに淫らであった。わずか布一枚に隠された年若い娘の半裸は、見ているだけで感じてしまいそうに蠱惑的だ。
シホは無意識に舌なめずりしつつ、次々と愛人の半裸を情報端末に納めていく。
「シ、シホさん……、私、もう限界……」
無理に笑っていたミスズだったが、膝はカクカクと揺れており、目尻には涙が溢れそうになっている。
「そう? それじゃ、そろそろ部屋に行きましょうか。……あ」
「こ、今度は何です?」
「ごめんね、間違えちゃった。部屋は反対側の廊下よ」
もちろん、間違えたのはワザとである。ミスズにもそれが判ったのだろう、目尻の涙がとうとう溢れてきた。
「ううう……」
「さ、行きましょ。部屋は向こうの廊下の奥よ」
「今度こそ本当ですよね?」
「信じないなら良いわよ。このまま帰りましょうか?」
「……行きます」
「ふふ、良い娘ね。さ、私の前を歩いて」
ミスズにイジワルをするのは楽しいが、さすがにそろそろ限界のようだ。ミスズを前にして、二人は廊下の反対側へ向かった。
可愛らしく揺れる剥き出しのお尻を、シホは思う存分視姦する。
「可愛いお尻。とってもいい眺めだわ」
「はうう……」
途中、再びエレベーターの前を通った時、軽やかな停止音が聞こえて、ミスズは身体が飛び上がらんばかりに驚いた。だが、どうやら別のフロアの音が聞こえただけのようだ。扉は開かず、誰かが出てくることも無かった。
「な、何号室ですか?」
「一番奥の部屋よ」
ゆっくりと歩くシホに対して、ミスズの足取りはどうしても小走りになってしまう。しかし、シホはミスズに合わせる事無く、ゆっくりと歩を進めていった。チラチラと時々振り返るミスズがいじましい。
廊下を中程まで進んだ辺りで、今度こそ、このフロアのエレベーターの停止音が聞こえてきた。
堪らなくなったミスズは一番奥の部屋まで駆け出していった。目尻に涙を浮かべ、不安そうにこちらを見ている。
「シ、シホさん、早く!」
それでも、シホは同じペースで廊下を進んで行った。背後でエレベーターの扉が開き、ホテル客が出てくる気配がしたところでポケットからカードキーを取り出し、ミスズに手渡す。
奪うようにシホの手からカードキーを受け取ったミスズは、震える手でスリットにカードを通した。だが、赤いランプとエラー音がして扉は開かない。
「ええ!?」
ミスズが慌てる様を見つつ、シホは身体を半歩ずらし、エレベーターから降りたホテル客たちにミスズの姿が見えるようにする。
エラー音に気付いてこちらを見たのは、スーツ姿の壮年の男性と、高校生くらいの女の子だった。パッと見は親子に見えなくも無いが、どうにも違和感がある。女の子は甘えるように男の腕に絡み付いているが、父親に対するというよりは、恋人にする仕草に近い。
平日の午後に親子連れがいるというのも考えにくい。多分、不適切な関係を結んでいるカップルだろう。あるいは本当に親子で、しかも不適切な関係を結んでいるカップルかも、とシホは自分を基準に考えた。
「シホさん! 鍵が! 開かない!」
何度もカードキーをスリットに通していたミスズが叫んだ。そこで、親子のようなカップルの視線に気付いた。男はニヤニヤと剥き出しになったミスズの下半身を凝視し、女の子は驚いたように目を大きく見開いている。
「しょうがないわね」
ミスズからカードキーを返してもらったシホは、スリットにゆっくりとカードを通した。拍子抜けするくらい、あっさりと鍵が開く。
「この手の機械は、ゆっくりとやるものよ」
とはいえ、こんな状況で落ち着けというのも無理な相談だ。
ミスズは扉を開き、飛び込むように部屋に入っていった。
残されたシホは、こちらを見て硬直している妖しげなカップルにウィンクをかましてから、ミスズに続いて部屋に入った。玄関先でしゃがみこむミスズの姿を見ながら、オートロックがかかったのを確認する。
「大丈夫?」
シホは、背中を向けてしゃがみこんでいるミスズに声をかけた。良く聞こえるように、シホもミスズの背後にしゃがみこむ。
「ふええーん……」
下半身裸の娘は身体をひるがえし、シホの豊かな胸に飛び込んできた。メガネを弾き飛ばし、ふくよかな年上の愛人の胸で泣きじゃくる。
「シホさん、ヒドイですよぉ。とっても恥ずかしかったんですからぁ……」
「ごめんなさいね。恥ずかしそうにするあなたが、とっても可愛らしいから、ついね」
「……」
「でも、恥ずかしいだけだったのかしら?」
「ふえ? ……あんっ!」
背中を撫でていたシホは、片手をミスズの股間に滑り込ませた。ヌルリとした感触が感じられる。むせび泣く愛人の秘所は、シホの予想以上に淫汁を溢れさせていた。
「すごい……。随分とおツユが出てるわね」