摘み食い-4
二人が何事も無かったかのように身体を離したところで、エレベーターはゆっくりと停止した。止まったのは、和洋中の飲食店が集まるレストランフロアだ。
扉が開くと同時に、幼稚園児くらいの男の子が元気良く駆け込んできた。
「ママーッ! 海! 海が見えるんでしょ?」
「ええ。お外に見えるわよ」
レストランフロアで食事を済ませたらしい親子連れは景色を眺める為、エレベーターの窓側に寄ってきた。
シホとミスズは一歩脇にどいて、子供が窓の外を見るのに良い位置を空ける。
「すみません」
「いいえ。元気なお子さんですね」
軽く会釈した母親は、外の景色を見ようとする子供の脇に並んで立った。シホたちには背を向ける格好だ。
エレベーターが再び上昇を開始する。
「わーっ、うみーっ!」
「ひあっ!」
景色が広がり、海が見えたところで男の子が感嘆の声を上げた。
それと同時に、ミスズの口から場違いな、あられもない声が漏れ出した。反射的にミスズは自分の口に手を当てる。
ミスズの隣に立つシホが愛人のスカートに手を入れ、尻肉を無造作に掴んだのだ。言い付けを素直に守っているミスズはスカートの下にも何も履いておらず、柔らかくてすべすべしたお尻がシホの手に直接触れた。
親子連れはミスズの声には気付かなかったようで、眼下に広がる景色に夢中になっている。
それを良い事に、シホはスカートのお尻を大きくたくし上げ、ミスズが言い付けを守っていることを直にその目で確認した。水着による日焼けの痕が艶かしい。
ミスズは恥ずかしそうにシホを見たが、シホはそれに構わず、密室での痴漢行為を続けた。尻肉を触り、掴み、時折菊門に指を触れる。
その度にミスズは声を漏もらしそうになったが、口を押さえてガマンしている。その様子がシホの嗜虐心を楽しませた。
だが、ミスズを辱めつつも、やりすぎてはいけない。やろうと思えば蜜壷に指先を挿しこむ事も出来るが、その一歩手前で止めておく。この辺りのさじ加減がなかなか際どい。目的は感じさせることではなく、恥ずかしい声をガマンさせることにあるのだ。
ミスズもただ嫌がっているわけではない。その証拠に、足を半歩ずらして、シホの手がお尻に触れ易い位置に身体を向けていた。
シホにとっては短い時間が、ミスズにとってはおそらく長い時間が過ぎていった。密室で、しかもすぐ近くに赤の他人がいる状況での淫らな行為に、シホの心は陶然とふるえていた。
やがてエレベーターが止まると、親子連れは下りていった。母親が軽く会釈し、男の子は扉が開くと同時に駆け出して行く。
さすがに、その時にはシホはミスズのお尻を解放し、二人は何事も無かったかのように振る舞っていた。
エレベーターの扉が閉まる。シホが取っている部屋はさらに二階上だ。
「はーっ……」
「どう? かなりドキドキした?」
「もう、エッチなのはシホさんの方じゃないですかぁ」
扉が閉まると、脱力した様子のミスズは、思わずエレベーターの床に座り込んでしまった。
「あなた可愛いから、ついつい、いじめたくなっちゃうのよね。だから……」
シホは、座り込むミスズの側にかがむとスカートのジッパーを開き、愛人の肩を軽く押してエレベーターの床に転がした。
「きゃっ!」
反射的に足を上げてしまったミスズから手早くスカートを剥ぎ取ったシホは、ちょうど開いたエレベーターの扉からさっさとエレベーターホールに出て行った。シホの手にはミスズのスカートがひらめいている。
「ちょ、ちょっと、シホさん!」
「さ、行きましょ。部屋はこっちよ」
公共の場で下半身のみが裸という、凄まじくエロティックな姿を強要されたミスズは、ブラウスの裾を一生懸命に引いて股間を隠そうとし、おずおずといった様子でエレベーターから顔を出した。
エレベーターホールの左右には廊下が続いており、ホテルの客室が並んでいる。エレベーターホールから廊下の奥まで、このフロアにはシホの他に誰もいない。
部屋は廊下の片面に並んでおり、反対側は窓になっている。窓は南西側に面しており、午後の陽光が射し込んでいた。
「お願い、シホさん……スカート、返してください」
「ふふ、ダーメ。ほら、早くしないと、誰か来ちゃうかもよ」
ミスズのか細い抗議を無視して、愛人のスカートを片手にシホはさっさと歩き出した。誘うように、手にしたスカートをひらひらと振る。数歩進んだところで、カーペットを踏む柔らかい足音が小走りに付いてきた。そのままの勢いで腕を掴まれる。
「は、早く、行きましょ!」
「ダメよ。ちゃんと背筋を伸ばして」
シホはしがみついてきたミスズの腕を振り払い、剥き出しのお尻を軽く叩いた。
「きゃん!」
夏物のブラウスは裾を出して着るようなデザインになっており、丈が短い為にミスズの下半身が完全に露出してしまっている。スポーツジムのスタッフらしく引き締まったお尻も、黒々とした茂みも、遮るもの無く午後の陽光に晒されている。
半泣きになったミスズは、それでもシホの命令通り、ショルダーバッグのストラップに手を掛け、普段と変わらない姿勢になった。
人気の無い、静かな高級ホテルの廊下で、下半身裸というありえない格好をした愛人の姿に、シホの心はざわめきたっていた。場所も構わず、この場で押し倒したくなってしまう。
シホは逸る心を抑え、冷静な顔をよそおいつつ、さらにイジワルな提案をした。
「そうだ、せっかくだから記念撮影しましょうか」
「シ、シホさーん……」
「はい、笑ってー」
ミスズの抗議など意に介さず、シホはバッグから取り出したスマートフォンのカメラを、非常識な格好をした年下の愛人に向けた。
ミスズは涙目になりながらも腰を伸ばし、理不尽な命令を出す愛人に微笑みかけた。
光が射し込む人気のない廊下に、携帯端末の撮影音だけが何度も響く。