接点-5
「……桃子にもずっと言おうと思ってたんだけどさ、あのグループの中の大山くんって知ってる? 大山倫平って人」
「知ってるよ」
私はそう言うと、ぼんやり大山倫平の顔を思い出した。
細身で背が高く、髪型とか、持ち物なんかがオシャレな人なのだが、つり上がった小さな目がやけに意地が悪そうに見えて、これまた私の苦手なタイプだった。
トイレでも行ってたのか、先ほどは姿が見えなかったけど。
「……その大山くんに、最近やたら一緒に遊ぼうって誘われてさ」
沙織の浮かない顔を見ると、大山倫平の一方的な片想いなのだろう。
「何度も断ってるんだけど、いつなら空いてる? ってしつこくてさあ。正直言うと結構困ってて、修に相談にのってもらってたんだ。だけど修は大山くんと一緒にいることが多いでしょ。大山くんの前でそんな相談できないから、普段はすれ違ってもあまり話はしなかったの」
「……そうだったの」
平静を装って答えたけど、内心は少しショックだった。
高校で一番の仲良しだと思っていた沙織が、私よりも先に土橋修に相談していた。
しかも、それを私は知らなかった。
嫉妬や、寂しさ、疎外感の入り混じったなんとも言えないどんよりとした気持ちが、こみ上げてきた。
「最初に桃子に言えばよかったけど、別に大山くんに告られたわけでもないし、なんか自惚れてるみたいで言いづらかったんだ。ごめんね」
と、沙織が申し訳なさそうな顔でこちらを見た。
その顔を見た瞬間、自分のバカくさいやきもちのような感情を読み取られたような気がして、急に恥ずかしくなり、
「ううん、そんなことないよ」
と、ごまかすように力を込めて首を横に振った。
微妙に気まずくなったこの空気を打破しようと、私はわざと冗談めいた声で、
「でもさ、一度遊んだら相手も気が済むんじゃないの?」
と、沙織の方にニヤニヤした顔を向けた。
「……同じこと、修にも言われた。でも、二人きりで遊ぶのは絶対イヤ」
「なんで?」
「だって、街とか歩いて他の人に、“あの二人つきあってるんだ”とか思われたくないじゃん。かといってどちらかの家とか行って二人きりってのも……それこそ恋人っぽくてイヤ」
沙織は苦虫を噛み潰したような顔をした。
よほど大山倫平が苦手なのだろう。
「沙織に彼氏でもいたら、大山くんも諦めるだろうけどね」
「んー……、彼氏ねぇ。いたらいいけどなかなかうまくいかないんだよねぇ」
「どうして? 沙織モテるじゃん。こないだだって、一個上の人に告られたでしょ? わりとかっこよさそうだったのに」
「だって、よくわかんない人だったし、それに今は彼氏作るより、友達と遊ぶ方が楽しいもん」
沙織はニカッと白い八重歯を見せて笑い、細い腕を私の腕に絡ませてきた。
同じモテるタイプでも、郁美と違って沙織はやや奥手なんだろう。
沙織は、恋愛話になると笑ってごまかす所があるので、私は最終的に無理に聞き出すことがほとんどだった。
自分の恋愛話を積極的に話してくる郁美とは正反対だ。