接点-4
「ごめんね〜、桃子お待たせ」
会話がひとしきり終わったらしい沙織は、私を見て申し訳なさそうに言ったけど、私はそれが耳に入っていなかった。
「……桃子?」
再び、沙織がキョトンとした顔で、私の名前を呼んでようやく我に返る。
「あ……あぁ、ごめん。ちょっとボーッとしてた」
「そっか」
沙織は私の様子を特に気に留めるわけでもなく、また廊下を歩き出した。
背後では、土橋修のグループがふざけ合って笑う声が響く。
そのバカ騒ぎっぷりが気になって私はチラッと後ろを振り返る。
土橋修は、きっと私には見せることがないであろう、笑顔を友達に向けていた。
その顔を見ると、先ほど土橋修が沙織に見せた表情や、仲のよさそうな会話が自然と思い浮かんでくる。
楽しそうに大きく口を開けて笑う土橋修を見ていると、どんな顔して郁美を振ったのか、と急に苛立ち始めて、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「と、ところでさあ、沙織って……土橋くんだっけ? あの人とも仲良かったんだね」
私はおもむろに口を開いた。
男の子の名前を出すなんてめったにないので、声がスムーズに出なかったし、自然を意識しすぎて不自然に声がうわずってしまった。
うわあ、挙動不審じゃん。
「あぁ、修? あたし、一年生のとき同じクラスだったでしょ? その時によく話すようになったんだよ。どうしてそんなこと聞くの?」
だけど沙織は、そんな私の様子を気にも留めずに答えた。
「ん、今までそんなに仲良く話してるのを見たことなかったからさ」
私はなるべく緊張を表に出さないように話を続けると。
「ああ……、最近相談にのってもらってたから、かな」
沙織はそう言うと、心なしか歩くスピードを少し落としてきた。
ふと彼女の顔を見ると、沙織のキレイに整った眉が微妙に歪んでいた。