暖かな氷の世界 * 流血表現があります-3
「俺が千騎を任されるまで、何年苦労したと思ってる?それが初陣で五千騎をつけられたガキにコキ使われるなんて、考えただけで泣けてくる」
テント脇で焚き火を囲みながら、一人の騎士が不満を漏らしていた。
傍らの幕僚が、即座に同意を示す。
「お目付け役なら、百騎もあれば十分だろうに。天才だかなんだか知らんが、戦場を見たこともない十一歳の子どもに、陛下もなにを期待しておられるやら」
「期待しているのは、王妃さまの方だろうよ」
もう一人の幕僚が、寒さにかじかむ手をこすりながら、皮肉な笑みを浮べた。
「あの完璧な目の上のたんこぶが、戦で大損害を出して、王の不興を買うのを、手をこまねいて待ってるのさ。俺たちは生贄ってわけだ」
「なかなか鋭いですね」
僕が姿を現すと、騎士たちはギョッとした顔で固まった。
「ヘルマン殿下!」
「その……今のは本気で言っていたわけでは……」
「かまいませんよ。このような人事、不満が出て当然です」
「は……はぁ……」
顔を見合わせる騎士たちの一人を視線で差した。あの的確な発言をした三人目だ。
「ただし、それが原因で統制がとれなくなれば、彼の言う通りになります。くだらないお家騒動の生贄になりたくなければ、命令にはきちんと従ってくださいね」
「か、かしこまりました!」
ちょうど、角笛の音が響き渡った。
「では、参りましょうか」
僕の後から、騎士たちが焚き火をあわてて踏み消してついてくる。
彼らの言う通り、書物でいくら知識を得ていようと、実際の戦場に立つのは初めてだ。
甲冑は動きにくいし、雪混じりの北風は容赦なく体力を奪っていく。
けれど……ここでも基本的な事は一緒だ。
まったくくだらない、どうでもいいものばかり。