移ろう-5
「ははは、アプローチされると思ったのに、利津子はずかしーい、のパターンかー。」
しょうちゃんはまた笑った。
「いや…」
私は口ごもった。そういう報告では、ないのだ。
「ん、どうした?」
「本気になっちゃったっぽい…」
「…は?」
「保険屋さん、本気で好きになった…気がする。」
電話の向こう、しょうちゃんがあっけに取られているのを感じた。
「え?何それ。
利津子ちゃんは、逃げられると好きになる仕組みなの?」
「いや、そこまで単純な仕組みにはなってないと思う…」
「俺も冷たくすれば利津子ちゃん好きになるー?」
「…相談する人いなくなるから止めて」
「…まあ、焦りは禁物だよー?なんかあったら電話しろよっ」
そう云って、電話は切れた。
流石のしょうちゃんも、今回ばかりは少し引いていたみたいだった。
「…声がひきつってたな…」
私は出勤の準備を始めた。