愛の折檻-4
「…そうだったん…ですか…」
言葉を紡ぐのがやっとだった。
沖直見も橘玲も、真樹子にありとあらゆる方法で性器を蹂躙され、大量浣腸や投薬で精神を狂わされていったに違いない。
死にたくなるような苦痛の中で一度でも恍惚感を味わってしまうと、身体がその快楽を求めて病みつきになるのだろう。だとすれば、自分ももう戻れない…?!
愛花の中では暗い戦慄と同時に今朝見た夢の内容が渦巻いていた。
「沖先生には私からよく言い含めて学園を辞めてもらいました。ただ、どうしても冴木の看病をしたいと言うので、しばらくの間、付き添いを許しています。今回の件は彼女のご主人にも言わざるを得なかったので、事実を伝えたらご主人はずい分シとョックを受けていたようでした。当事者同士の話し合いにもよりますが、いずれ離婚することになるかもしれません…」
(女が女を愛するというのは、そういうことなのよ…)
監禁された地下室で志津が言った言葉が愛花の頭をよぎった。
3.
理事長に会った日から3日後、愛花は退院した。そして9月下旬。
一生忘れられないであろう、あの狂った夏は終わりを告げ、季節は秋を迎えていた。
「おじさま、おばさま。本当にお世話になりました!」
青木家の玄関では衣類の入ったボストンバックを両手に抱えた愛花がぺこりと頭を下げている。
玄関にはつかさと両親が出てきて名残を惜しんでいた。
「本当に良かったわ〜。明日はいよいよお母さん退院ね!」
「急いで帰って家の掃除を済ませてお料理を作ります」
「愛花ちゃんがいなくなると本当に寂しくなるよなぁ…。なぁつかさ?」
「平気よ。すぐ近所なんだし。それに毎日学校で会えるもん! ねぇ父さん、これから愛花の家に行って手伝ってもいいでしょ?」
志津が退院するまでの間、中学生の一人暮らしになることを心配した美貴とつかさの両親がそれぞれ『自分の家に来ないか』と申し出てくれたので、愛花は悩んだ末につかさのいる青木家の世話になることにした。
先輩や同級生に嫉妬されるのが嫌だったせいもある。しかしそれ以上に愛しい美貴と同居でもしたら、淫らな欲望に身を任せてとめどもなく堕ちていってしまいそうで恐ろしかったのだ。
愛花は青木家から毎日病院に通って志津の世話をした。
笠倉家までは約10分ほどの道のりだ。
愛花は海岸通りをつかさと並んで歩きながら、ずっと押し黙ったままだった。
主治医の言った通りあれから志津はだんだんと快方に向かい、すっかり良くなってきた。
時々ぼーっとしていることを除けばもう以前の志津と変わりはない。
しかし愛花は不安だった。
全身が性感帯になったままイキ続けて眠ることもできず、音と光の洪水に飲み込まれて頭がおかしくなってしまった自分。
その自分以上にママは激しく責められ続け、遂には心停止まで起こしたのだ。
はたして本当に治ったのだろうか? 自分が今も頻繁に見る淫らな夢をママも見ているのではないか?
戻ってきてもいつか自分の目の前から去っていってしまわないか?
そんな思いが次から次へと生まれ、心から消えないのだ。
つかさも愛花の様子を敏感に感じ取り、なかなか話しかけられないでいた。
実は1週間ほど前に2人は一線を超えてしまっていた。
その日の夜、つかさは隣の部屋から聞こえるうめき声で目を覚ました。中に入ると、愛花がいつもの淫夢を見てうなされていた。
可愛らしい唇から漏れる苦しげな声。身悶えしながら淫らな言葉を呟く愛花を前につかさはたまらなくなり、愛花の唇を、乳房を、オマンコを思うがままにした。
愛情のこもった舌技で性器をたっぷりとねぶられ、つかさの口中で思い切り潮吹きした愛花は再び安らかな眠りに戻った。しかしつかさの胸中は複雑だった。
やっと想いを遂げたという歓喜よりも、親友の身体をこんな形で貪ってしまった罪悪感が残った。
「愛花さぁ、最近よく夜中にうなされてる…よね?」
「…えっ?! つかさちゃん、聞いてたの…?」
びくん、と愛花は身をこわばらせて立ち止まった。
「あんまりうなされてるもんだから…。愛花、泣きながら『牝奴隷』だとか『犯して』とか…言ってて…。それ聞いてたら、あたし…もう、たまらなくなっちゃって…さ。…ごめん…ね…」
「……っ!!」
愛花はハッとした。そういえば思い当たるフシがある。
先週、淫夢の中でつかさと激しく愛し合ったのを思い出した。やけに生々しい夢だったが、あれは現実だったのだ。
真っ赤になって下を向くと、ポツリと答えた。
「そう…だったの…。こっちこそごめんね、いやらしい女の子で…。冴木クリニックから戻ってきて以来…私、なんかおかしいの…」
「仕方ないよ、あれだけのことがあったんだもの。…恥ずかしいかもしんないけどさ、お医者さんに一度相談してみなよ……」
つかさもバツが悪そうに答えた。
2人はなんとなく気まずい雰囲気のままスーパーで料理の材料を調達して笠倉家に戻ってきた。
そしてうっすらと埃の溜まっていた家の掃除を始める。
ピンポーン。
掃除がようやく一段落ついた頃、玄関のベルが鳴った。
愛花が出るとそこに立っていたのは美貴だった。
「……ひさしぶりね。元気にしてる?」
「先輩…!」
愛花は現在、剣道部を休部中だ。
表向きには交通事故に遭ったので、療養のため休んでいるという名目だ。
一方、美貴はあれから突然倒れた玲の代わりに主将としてチームを率い、全国中学校剣道大会に出場した。しかし結果は惨敗。
チームの要である美貴がここぞという試合で立ち回りに精彩を欠き、二回戦で当たった強豪校に競り負けてしまったのだ。
愛花を心配するあまり練習中もうわの空で、いつもの集中力を失ってしまったのが敗因だろう。