華詞―ハナコトバ―5の花-3
「…先生にとっては私たちなんて子供かもしれないけど、真剣に好きになっている人だっているんだからちょっとはマジメに考えてください。」
感情が高ぶって少し大声になる。
先生はと突然のことにびっくりした表情でわたしのことを見ていた。
わたしもじっと見つめ返してみる。
そのうちなぜか涙目になってきてしまう。
顔も赤いし涙目だしいろいろ最悪だ。
どんな顔で見たらわからず、わたしはうつむいて先生が立っている反対方向のドアに向かって歩きだした。
「待って。」
先生に腕をぐいっと掴まれる。
見た目の雰囲気と違って強い力にびっくりする。
「…石井さん、勘違いしてるよ。」
先生は困った顔をして私の前に立つ。
「自分だけが苦しいって思ってない?」
先生の言っていることがよくわからず、自分がひどい顔だということも忘れ見つめ返してしまった。
「本当はね、石井さんがわざとこうやって残っているのも知ってるよ。誰よりも真面目に僕の講義を受けてくれているのもわかってる。あの噂で傷ついているならごめんね。
本当は…石井さんとデートしたいって思ってたのは僕の方なんだよ。」
突然のことで一瞬わけがわからなかった。
先生が私とデートしたいってどうゆうことなんだろう。
頭の中がぐるぐるしておかしくなりそうだ。
「先生、言っていることがわかりません…。」
「え、あ、そうだよね。ごめんね。最初から話すと、僕は石井さんが好きなんだよ。でも卒業してから言おうって思ってたんだ。」
これは夢だろうか。先生が私を好きだなんてそんなことが起こるのだろうか。
現実じゃないのかと思ったけど、私の腕を掴んでいる先生の手はまぎれもなく本物だった。
何と言っていいかわからず、掴まれた腕をじっとみつめていると、先生が慌てて手を離した。
「ごめんね。痛かった?」
先生は心配そうに私を見る。
「どうして先生が私のことを好きなんですか?」
「どうしてって…。強いて言うなら素直なところかな。石井さんってすぐ顔に出るでしょ。嬉しい時は本当に幸せそうな顔するし、見ていると僕も嬉しい気持ちになれるんだよ。」
先生はにこにこしながら答えた。
「でも、デートの噂とか…。」
「あれはね、生徒の子にどんなタイプが好きですかって聞かれたから、真面目で素直な人って言ったらなぜかあんなことになってしまったみたいなんだよね。一度噂は嘘だよって言ったんだけど誰も本気にしてくれなくてさ。それでそのまま…。」
先生はため息をつきながら困ったような顔をする。なんだかその姿がかわいくて気持ちが和らいでいく。